「ハルヒ」はじめ時代を彩る名作がズラリ ライトノベルのルーツであり代名詞「スニーカー文庫」35年の足跡
ライトノベルのレーベル「スニーカー文庫」が創刊から35周年を迎えたことを記念するオンラインイベント「スニーカー文庫35周年FESTA!」が9月23日に配信された。「涼宮ハルヒシリーズ」の新作が制作中だったり、『時々ボソッとロシア語でデレるアーリャさん』のTVアニメのスタッフが決定したりと、盛りだくさんの情報にそれぞれの作品のファンは喜び、レーベルの歴史がそのままライトノベルの歴史となるスニーカー文庫の存在感も示された。
オンラインイベントに登場したタイトルを見れば、スニーカー文庫が折々にヒット作を送り出してきたことが分かる。TVアニメの第3期放送に向けたPVが発表された暁かなめ『この素晴らしい世界に祝福を!』は、本編こそ完結したものの劇場版が作られ、スピンオフ『この素晴らしい世界に爆焔を!』もTVがアニメ化されて話題となるなど、2010年代のスニーカー文庫を代表する1作として熱いファンを得ている。
小説投稿サイトからの書籍化が相次いだ時代にあって、最高に近い成功例となった「このすば」シリーズ。後に続けとばかりに、スニーカー文庫にも「小説家になろう」や「カクヨム」といった小説投稿サイト発の作品がいろいろと並ぶようになり、その中からアニメ化されたトネ・コーケン『スーパーカブ』が出たり、アニメ化が決まっている燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』が出たりと、時代をしっかりキャッチアップしているところを見せている。
もっとも、スニーカー文庫といえば「スニーカー大賞」や「学園小説大賞」といったコンテストを開催して、数々の新人をライトノベル界のみならず小説の世界全般に送り出して来たことでも知られている。その筆頭が、23日のオンラインイベントで新刊が制作中だと発表されるなり、SNSが大騒ぎになった谷川流「涼宮ハルヒ」シリーズだ。2003年に第8回スニーカー大賞の〈大賞〉を獲得して刊行された『涼宮ハルヒの憂鬱』から始まるシリーズは、傍若無人とも言える少女の回りに奇妙な人たちが集まり、不思議なことが起こって驚かせてくれる展開が、学園小説としてもSFとしても面白く話題となった。
そして、2006年にTVアニメが放送されるや、斬新な設定やストーリーや生き生きとしたキャラクター描写、話数をシャッフルして流す放送形態といったものが注目を浴びて一挙にブーム化。世間にスニーカー文庫でありライトノベルといったものの存在感を強く印象付けた。
もっとも、この頃はまだ、ライトノベルという言葉はまだ一般的ではなかった。スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫、そして電撃文庫といった、ティーンが好みそうな内容の小説に漫画やアニメのようなイラストを付けて刊行するレーベルを総称して、ヤングアダルトと呼ぶ勢力もあればライトノベルと呼ぶ勢力もあった。
これが、2004年に『ライトノベル完全読本』と『ライトノベル☆めった斬り! 』が出たことで、呼び名がライトノベルに固まり、ちょうど流行っていた「涼宮ハルヒシリーズ」がライトノベルの看板タイトルとして押し上げられる形となった。スニーカー文庫はその意味でも、ライトノベルのルーツにして代名詞と言えるレーベルなのだ。
2021年にKADOKAWAの社史として関係者に配布されるや、同社がアニメやゲームといったサブカルチャーに取り組んで来た歴史をつづった第一級の資料として話題になった本が、『KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展』。そこには、スニーカー文庫の成り立ちも書かれている。