話が伝わらない原因は「声」かも? 「言語化」の精度を上げる実践書『きちんとことばを伝えるための10章』が面白い

話が伝わらない原因は「声」かも?

 令和の世は、空前絶後の「言語化」ブームである。仕事では「端的に」「正確に」が求められ、気づけば日常の連絡手段も電話よりメッセージアプリが主流に。息抜きに眺めるSNSでも、ズバッと刺さる一言を放った人が、あっという間に脚光を浴びる。

 書店をのぞけば、「言語化」をテーマにした本がずらりと並び、誰もが“うまく伝える力”を手に入れたがっているのが伝わってくる。とはいえ、「ちゃんと話しているはずなのに、なぜか伝わらない」というモヤモヤを抱えている人も、きっと多いはずだ。

 考えてみれば、それも当然かもしれない。私たちが「伝わらなかった……」と落ち込む瞬間の多くは、LINEの文章ではなく、会議やプレゼン、対面での会話といった“声を出す場面”なのだから。

話しているのに伝わらない。その原因は「声」かもしれない!?

 オンライン面接やリモート会議が増えたここ数年、「内容は悪くないはずなのに、相手の反応が薄い」「なぜか場の空気が止まる」と感じた経験がある人も多いだろう。言葉は選んだ。論点も整理した。でも、手応えがない——。そんな人に、「その原因、“発声”かもしれませんよ」と、意外な角度からヒントを投げてくるのが、『きちんとことばを伝えるための10章』(朝倉書店)だ。

 本書は、「本の広告」を専門にする広告会社・とうこう・あいが主催した「2025年 わが社で話題になった本フェア」で堂々の1位を獲得。タイトルだけ見ると、どこかお堅い印象を受けるが、中身はいい意味で予想を裏切ってくる。

 第1章は「発声の仕組み」。そこから「発音」「音節」「アクセント」「イントネーション」と、かなり本気のラインナップが続く。執筆陣も、元NHKアナウンサーに大学教授、NHK放送文化研究所の研究員と、“声のプロフェッショナル”が勢ぞろい。正直、「これはガチすぎるのでは……」と一瞬身構えるが、読み始めてみると拍子抜けするほど読みやすい。横書きでテンポよく、説明も平易。「専門書」というより、「大人になってからやり直す、話し方の基礎トレ」だ。

 本書を読んでまず突きつけられるのは、「自分がいかに話し方を放置して生きてきたか」という現実だ。手鏡を持って「ア・イ・ウ・エ・オ」と口を動かし、舌の位置や口の開き方をチェックするように促される。その光景は、ほぼアナウンサーの発声練習。しかし、考えてみれば彼らこそ言葉で伝えるプロ。あの伝わるスキルは、こうした基礎練習があってこそなのだ。

 母国語だからこそ、私たちは自分の発声に驚くほど無頓着だ。「映画」を「エーガ」、「毛糸」を「ケート」などと言ってはいなかっただろうか。前後の文脈に甘えて、「まあ伝わるだろう」と音を省略する。実際に伝わってしまうから、伝わって当然だと慢心する。その小さな油断の積み重ねが、「なんか伝わらない」の正体だったのかもしれない。

コミュ力はセンスではなく、筋力のように鍛えられるもの

 本書を読んで改めて感じるのは、日本語の繊細さだ。「これ読む↑」という疑問、「これ読む↓」という肯定、さらに「本当に読むの?」と念を押す「これ読む→⤴」。文字にすればすべて同じなのに、声の出し方ひとつで意味は大きく変わる。普段、無意識で使っていた日本語が、急に奥行きを持って立ち上がってくる。

 加えて本書は、「出すべき音」だけでなく、「出さないほうがいい音」にも目を向けさせる。
代表例が「えー」「あのー」「まあ」といった、いわゆるフィラー。間を埋めるための口グセだ。これを自覚するために勧められるのが、自分のスピーチを録音して聞き返すこと。

 正直、これはなかなかの苦行である。筆者も仕事柄、インタビュー音声を聞き返す機会は多いが、「あ、また余計なことを言っている」「今ならもっと落ち着いて聞けたのに」と反省点ばかりが耳につくのだ。できることなら、聞き返したくない。それでも、その“気恥ずかしさ”の正体こそが、伸びしろなのだろう。

 理想の体を目指すなら筋トレが必要なように、理想的なコミュニケーションにもトレーニングが必要だ。まずは、自由気ままに使ってきた自分の話し方を、録音という鏡で直視すること。どれだけ自分が“自然体すぎる”話し方をしていたのかを知るところから始まるのだ。そして、本書には、どうしたらその部分を鍛えられるのかという各章ごとに具体的な練習方法や課題も用意されている。

 2026年は、まだ始まったばかり。今年の目標に「伝える力を鍛える」を加えてみるのはいかがだろうか。きっと、この本がそのトレーニングの頼もしい伴走者になってくれるはずだ。

■書誌情報
『きちんとことばを伝えるための10章 (コミュニケーションに役立つ日本語学の10章)』
著者:山下 洋子(著、編集)、白勢彩子(著)
価格:2,420円
発売日:2025年9月2日
出版社:朝倉書店

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