北川景子×吉岡里帆、W主演ドラマで注目! 湊かなえ『落日』は人間の暗部を描く傑作

ドラマ化で注目、湊かなえ『落日』

 湊かなえという作家の存在を知ったのは、映画『告白』だった。松たか子の淡々とした語りで始まるその映画は、感情の起伏を最小限に抑えるかのようにクライマックスまで直走り、そして、爆発した。原作を手に取ったのは、映画鑑賞から随分経ってからだ。映像が静かだった分、原作も静かな湖畔に石を落として波紋の広がりをジッと見つめるかのような作風なのだと勝手に想像していた。だが、それは筆者の勝手な思い込みだった。

 力強い語り口と、丁寧ながらも怒りを押し殺す圧倒的な文筆力。ページをめくる手が止まらなかった。止めたいのに止められない。そんな状態を意味する「ページターナー」という言葉があるが、筆者にとって湊かなえ作品は「ページターナー」だと思った。

 そんな湊かなえのミステリー長編『落日』(ハルキ文庫)が、北川景子と吉岡里帆のW主演でWOWOWによってドラマ化される。この記事では、『落日』の面白さとドラマへの期待を綴っていく。

誰も知りたがらない風化した事件を映画人の視点で探る

 『落日』は、新進気鋭の映画監督 長谷部香が、一時期住んでいた町で発生した「笹塚町一家殺人事件」を映画化したいと考えたところから始まる。その事件は、一家の長男が妹を刺殺した後に放火し、両親も死に至らしめてしまったというものだ。長男には死刑判決が下されているが、長谷部はこの事件には知るべきことがあると考え、笹塚町出身の売れない脚本家の甲斐真尋に映画化の話を持ちかけるのだ。

 物語は、長谷部の人生を辿る「エピソード」と、事件を取材する「章」が折り重なる構成になっている。交互に語られる過去と今を追いながら、長谷部が人の暗部にも容赦無く焦点を当てるドキュメンタリーを撮る理由や、笹塚町一家殺人事件が実は一筋縄ではいかない複雑さを孕むことを知る。

事件を基にしたリアルな脚本とは

 だが、どんなに新事実が見つかっても、そもそも笹塚一家殺人事件は、映画の題材になるほどセンセーショナルではない。そこであらゆるネタの可能性を求めて調査するのだ。

 そして、長谷部から脚本執筆を依頼された甲斐は、調査する中で、触れたくない己の傷や過去にも向き合わざるを得なくなる。全ては事件の真相に近づくため、完成度の高い脚本を書くためだ。

 最終的にできあがった脚本は、事実をまとめつつも商業的な魅力をもったものだった。だが、どこまでが真実でどこからが脚色なのか。読者は、事件が誰かの目を通して語られるまでの過程を追う。

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