『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』を先取り? ミステリーの巨匠・宮脇明子『名探偵保健室のオバさん』を読む

宮脇明子『名探偵保健室のオバさん』を読む

 筆者にとって保健室は癒しだった。住んでいる場所が近いから、偏差値が同じくらいだからといった理由だけで、学校という狭いコミュニティの中でサバイブしなければならなかった学生時代において、適度な距離感で接してくれる擁護教員がいる保健室はオアシスだった。

 だが、もしも養護教員が恐ろしく厳しい人だったら……。学校生活はサバイバルどころの話ではなく、非常にスリリングでサスペンスフルなものになるだろう。そんな、保健室の養護教員と保健委員の日常を描いたのが『名探偵保健室のオバさん』(集英社)だ。タイトルとポップな表紙からギャグ要素強めな作品を想像して手に取ったが、これが実に骨太なミステリーだった。それ以来、宮脇明子氏(以下敬称略)の漫画に魅了され続けている。

 この記事では、『名探偵保健室のオバさん』や代表作『ヤヌスの鏡』など、ミステリーの巨匠 宮脇明子の世界について語る。

この方を誰と心得る。保健室のオバさんである

 『名探偵保健室のオバさん』は、洞察力が高く度胸のある保健室のオバさんが、保健委員の神宮寺尊と共に学園で発生する事件を次々解決していく学園ミステリーである。探偵ミステリーものは、一癖も二癖もある探偵が登場するが、本作の場合は、ダサいオバさんが実はとんでもない美女という設定。

 普段はひっつめお団子ヘアにとんがりフレームのメガネで美貌を隠し、学園の異変に目を光らせ、何かあったら野次馬根性丸出しで解決のために人肌脱ぐのだ。

 最大の見せ場は、なんと言ってもオバさんの華麗なる変装。あるときは、ドレスを身に纏ってパーティに潜入、またあるときは極道の女に変装して組に乗り込む。肝の座ったオバさんの迫力に気押された犯人は深くうなだれて一件落着するお決まりのパターンは、時代劇『水戸黄門』を彷彿させる。

 連載開始は1990年(初掲載は1989年)。ディテクティブ漫画の金字塔と言われる『名探偵コナン』と『金田一少年の事件簿』が1992年なので、それよりも少し早かったことになる。
当時は江戸川乱歩シリーズや横溝正史シリーズがドラマ化されたものが地上波で頻繁に流れていたこともあり、ミステリーやサスペンスが身近な存在だった。とはいえ、学生が活字で楽しむのは少々難しさがあっただろう。そこに適度なハラハラと読後のスッキリ感で少年少女の心を掴んだのが『名探偵保健室のオバさん』で、後のディテクティブブームへと流れを繋いでくれたと筆者は考えている。

まどろみの中の世界観

 『名探偵保健室のオバさん』のように、小気味いいサスペンスもある一方で、現実と非現実が交差した世界観の中で展開するサスペンスやミステリーも得意としている。

 代表作のひとつで2度もドラマ化された『ヤヌスの鏡』(集英社)は、おとなしい少女が実は二重人格で、自分の意思に反して次々と自らを危険な状態に追い込んでいく学園ものだ。

 厳しい家庭の品行方正な少女は、抑圧された生活の中で、鏡の中に別人格を見出す。その少女は成長するにつれて変身願望を持つようになり、別人格が力をつけ始める。主人格の意識が混濁している間に次々と起こる別人格による悪事。主人公は、現実と非現実が交差する中で、自分の身に何が起こっているのか向き合わなければならない。

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