立花もも厳選 ページを開くのが怖い澤村伊智、織守きょうやのゾッとする作品を中心に……今読みたいおすすめ新刊小説
発売されたばかりの新刊小説の中から、ライターの立花ももがおすすめの作品を紹介する本企画。数多く出版された新刊の中から厳選し、今読むべき注目作品を集めました。(編集部)
『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』 澤村伊智(双葉文庫)
澤村さんの小説は新刊が出るたび読んでいるが、ページを開くまでにそこそこの時間を要してしまう。怖いのがわかっているからだ。『ばくうどの悪夢』は3ページ目くらいでいったん本を閉じたほどで、その先を読み進めるのにはだいぶ勇気がいった。でも、一度手にとったら、読み終えるまで本を手放せない。それもまた、澤村さんの小説の怖いところだ。
『アウターQ』は、タイトルどおり弱小Webマガジンのライター・湾沢が遭遇するさまざまな事件を描く連作短編集。第一話で湾沢が調査するのは、覇覇覇、から始まり、露死獣、で終わる公園の落書きだ。二十歳まで覚えていると露死獣に殺される、と言っていたかつての友人は早世していた。その謎を解き明かした先で、湾沢が目にするものはあまりにむごくて、しょっぱなから目をそむけたくなる。それでもやっぱり、次の事件を追いかけて、ページをめくってしまう。
どの事件も、取材で明かされていく真実は決して心地よいものとはいえないが、一編が短く、軽い語り口で描かれるため、さほど引きずらずに読むことができる。だがこの「引きずらない」という感覚こそが今作のもっともおそろしいところである。私たちは現実でも、奇妙だったり凄惨だったりする事件が起きたとき、さまざまに感情移入しながら、しょせんは他人事と消費して忘れていく。そこに渦巻く悪意と欲望は決して私たちと無縁ではなく、傷つけられた人たちも「特別」な存在なんかではないというのに、次から次へとWEB記事をクリックしては話題を変える。そう、まるで澤村さんの小説を読むように。怖いね、ひどい話だね、かわいそうに――でも、おもしろいね。その感情が、新たな事件を呼び寄せる。物語でも、現実でも。
ああ、やっぱり、怖い。読み終えたあとの、このざわざわした感情は、いったいどうおさめたらいいのだろう。でもきっと、また新刊が出たらすぐに買ってしまう。だって、おもしろいのだから。
織守きょうや『彼女はそこにいる』(角川書店)
こちらもホラーミステリー。なぜか住人のいつかない中古の一軒家が舞台である。いかにも、といった感じで設定だけでぞくぞくする。
越してきたその家で、中学生の茜里はたびたび不可解な現象にみまわれる。テレビが突然つけたり消えたり、知らない髪の毛が落ちていたり、夜中に母でも妹でもない足音が聞こえたり。一つひとつは理屈をつけられそうな些細な出来事だが、度重なれば恐怖に変わる。さらに妹が拾ってきた人形が、何度遠くに捨てても戻ってきてしまうというなんてことも。盛り塩をしてみても無駄で、朝起きたら誰かが蹴飛ばしたみたいに散らばっている。しかもその人形、どうやらももとは同級生が捨てたものらしい。彼女もまた、何度捨てても戻ってきてしまうその人形に悩まされていたのだが、霊感があるという祖母の助けを借りてどうにか手放したのだ。茜里もまたその祖母を頼るのだが……。
問題なのは家そのものか、人形か。はたまた、そのどちらもか。やがて、いわくつきの物件を求めるフリーライターの高田がその一軒家にたどりつく。不動産仲介業者の朝見とともに取材するうち、少しずつ「家」の過去が明らかになっていくのだが、ああきっとこういうことなんだろうなあと安易に予測して安心してはいけない。まるで想像もしていなかったラストにたどりつくから、最後の一行まで要注意である。夏の夜、ひんやりした気持ちになりたいときに、ぜひ。