若林踏の一冊:米澤穂信『可燃物』(文藝春秋)
群馬県警捜査第一課の葛警部が探偵役を務める連作短編集だ。いずれの作品でも手掛かりを基にした論理のアクロバットが展開し、その鮮やかさに感嘆する。報告書のような筆致で捜査を淡々と綴り、刑事たちの個性や私生活の描写を抑えている分、作中で披露される流麗なロジックが却って際立つものになっているのだ。収録作から一押しを選ぶとすれば「本物か」だろう。ファミレスで起きた立てこもり事件を描くスリリングな話だが、意外なものが手掛かりとなって真相へと到達する過程が実に見事。まさか、あんなものから推理が進んでいくとは。
杉江松恋の一冊:米澤穂信『可燃物』(文藝春秋)
警察小説と本格ミステリーが別物であるかのようなコピーがついているのだけど、イギリスの謎解き小説は基本的に警察官が主人公なのである。いいじゃん、警察官が名探偵でも。その基本に立ち返ったような連作集で、事件現場から消えた凶器、奇妙な形で符合する目撃証言、死体をバラバラにした犯人の動機といった謎が一つの物証からするすると解けていくところがおもしろい。おそらくロイ・ヴィカーズ『迷宮課事件簿』が着想の原点にあるのではないだろうか。米澤謎解き小説の中核だけを取り出したような内容で、ビシッと締まっていていい。
※橋本輝幸さんは今回お休みです。
ソリッドな短篇集に票が集まりました。それ以外にも短篇集の人気が高く、特徴のある月になりましたね。「このミス」年度の期日が近づいてくるので、これから人気作・話題作がどんどん出てきます。お財布に余裕を持って、次月に備えてください。
編集者・ライター・書評家。
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千街晶之
1970年生まれ。ミステリ評論家。『水面の星座 水底の宝石』(光文社)で第57回日本推理作家協会賞と第4回本格ミステリ大賞をダブル受賞。著書に『怪奇幻想ミステリ150選』(原書房)、『幻視者のリアル』『原作と映像の交叉光線』(ともに東京創元社)、『読み出したら止まらない! 国内ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)など。共著に『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)など。編著に『歪んだ名画 美術ミステリーアンソロジー』『魍魎回廊 ホラー・ミステリーアンソロジー』(ともに朝日文庫)、『絶対名作! 十代のためのベスト・ショート・ミステリー』(全4巻、汐文社)など。
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若林踏
書評家。1986年生まれ。『小説現代』『小説すばる』『週刊新潮』などで書評連載を持つ。著書に『新世代ミステリ作家探訪』『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』(光文社)、『日本ミステリ新世紀MAP 現代ミステリ25年の歩みと31人の作家たち』(実業之日本社)がある。
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杉江松恋
1968年東京都生まれ。書評家。2025年、『日本の犯罪小説』にて第78回日本推理作家協会賞評論・研究部門を受賞。その他主な著書に『路地裏の迷宮踏査』『ある日うっかりPTA』『浪曲は甦る』『芸人本書く派列伝』、共著に『絶滅危惧職、講談師を生きる』(神田伯山との共著)、『100歳で現役! 女性曲師の波瀾万丈人生』(玉川祐子との共著)、『芥川賞/直木賞候補作全部読んで予想・分析してみました: 第163回~172回』(2冊)などがある。「ほんとなぞ」主宰(https://www.youtube.com/channel/UCeKxCJryvcBw18COdGxVHew)。(撮影:川口宗道)
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