「青春ブタ野郎」シリーズ、なぜ多くの人々に刺さる? 思春期の迷いや悩み描く人気作の魅力

「青ブタシリーズ」の魅力

 思春期ならではの迷いや悩みが引き起こす、「思春期症候群」という不思議な現象が描かれた鴨志田一の「青ブタ」シリーズは、今まさに青春を謳歌している人も、思春期を経て大人になった人も共に、人生における様々な可能性に思いを馳せることができるライトノベルだ。6月23日にはシリーズ第8弾『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』(電撃文庫)がアニメ映画化されてスクリーンに登場。悩みを乗り越えようとする少女と支えようとする人たちの優しさに触れられる。

 もしも図書館にとびっきり美少女がバニーガール姿で現れたら? 普通だったら大騒ぎになるか、騒がないまでもイタい子だと見て見ぬふりをしながら、やはり横目でチラリと見てしまうだろう。ところが、そんな美少女のバニーガールが現れても、図書館では誰ひとり騒ごうとも視線を向けようともしなかった。梓川咲太以外は。

「青ブタ」シリーズ第1弾『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(電撃文庫)の冒頭シーン。想像するだけで心がザワつくシチュエーションで、2018年10月から放送されたTVアニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』ではそれが映像として登場して、シュールだが萌える雰囲気を漂わせた。

 咲太が驚いたのは、バニーガールが突然現れたことと同時に、それが咲太の通う高校の先輩で、子役の頃からテレビや映画で女優やモデルとして活躍してきた桜島麻衣だったこと。普通に歩いていても誰だって気づく有名人が、バニーガール姿で歩いていても咲太以外は気づかない不思議な現象を発端にして、「思春期症候群」という現象の存在が描かれていく。

 女優として売れるためにこなさなくてはならない、あまり好きではない仕事に心を痛め、高校入学と同時に休業宣言をした麻衣は、誰からも関心を持たれない存在になろうとした。その気持ちが、天才女優ならではの演技力と結びついて「思春期症候群」を引き起こしたのかもしれない。

 そう考えた咲太が、本当は女優をやりたいと思っている麻衣に手を差し伸べ、状況を突破していこうとする姿に、麻衣ならずとも強さと優しさを感じてしまう。青春の悩みにはこんな解決方法があるのかと教えられる。そんな作品になっていた。

 迷ったり悩んだりする心が引き起こす「思春期症候群」の原因を探り、解消していくストーリーを通して、青春ならではの様々な悩みにどう向き合うべきなのかといった道を示していく「青ブタ」シリーズ。続く第2弾『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』では、同じ日が繰り返される現象の原因になっていた少女の思いに迫る。第3弾『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』では、咲太の友人の双葉理央が2人に増えてしまう原因を探って、羨望や嫉妬に迷う心の持っていき場所を指し示す。

 シリーズがユニークなのは、認識と存在の問題であったり、繰り返される時間からの脱出であったりと、SF的なテーマを巧みに折り込んで、青春ラブコメとも呼べそうなストーリーに変化と深さをもたらしていることだ。

 映画『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』の内容にも関わってくる、咲太の妹で引きこもり気味になっている"梓川かえで"が話の中心になった第4弾『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』でも、逃げたい心が生み出すもうひとりの自分といったテーマが絡んでくる。

 そして、2019年に劇場アニメ化されたシリーズ第6弾の『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』と第7弾『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』では、取り返しのつかない出来事をどうしても取り戻したいとあがき、二者択一しかない道に別の可能性を開こうとして時間を飛び越える、本格SFのストーリーを描ききった。映画は各配信プラットフォームでの配信も始まっていて、見て現実には1回切りの人生を、どう生きていくかを考える糧にできる。

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