「フルメタ」「シャナ」「ブラックロッド」……平成の傑作ラノベが続々と復活! 今なお輝く魅力とは?

「フルメタ」「シャナ」平成ラノベ復活

 「平成は遠くなりにけり」なんて大嘘だ。賀東招二の「フルメタル・パニック!」シリーズや、高橋弥七郎「灼眼のシャナ」シリーズといった、平成のライトノベル人気を支えた傑作が続々と"復活"して、その面白さを令和の世に改めて知らしめようとしている。

 5月19日発売の「ドラゴンマガジン」2023年7月号に掲載された「フルメタル・パニック!」復活の特報に、ライトノベルのファンも業界人も驚いた。キャラクターのイラストと新作小説の冒頭が掲載されて、これから何が起こるのかと期待を誘った。

 女子高生の千鳥かなめが通う都立陣代高校にある日、相良宗介という男子が転校してきたが、この宗介がなぜかかなめにつきまとっては、過激な行動を繰り返す。1998年に登場した賀東招二の「フルメタル・パニック!」シリーズ第1巻『戦うボーイ・ミーツ・ガール』(ファンタジア文庫)は、学校でのささいな出来事に拳銃を取り出し、発煙弾を炸裂させる宗介の戦争マニアぶりにかなめが振り回され、怒りを爆発させるコミカルな描写で笑わせてくれた。

 もっとも「フルメタ」シリーズには、宗介がミスリルと呼ばれる秘密の傭兵組織に所属しているすご腕のエージェントで、そのミスリルから派遣される形でかなめの護衛についているというシリアスな設定があった。ストーリーはその後、かなめが持つある種の能力を狙う集団が登場し、宗介やミスリルがその集団に対抗している構図が浮かび上がり、世界に悲しみをもたらす戦争に人類はどう向き合うべきかといった壮大なテーマを持ったSFアクションへと発展していく。

 かなめを狙って繰り出される敵の攻撃や、世界を脅かそうとする謀略に人型兵器「アーム・スレイブ」を駆って立ち向かう宗介の戦いを軸にしたミリタリー描写の緻密さが、ラノベ好きやリアル系ロボットアニメのファンを作品へと惹きつけた。最初はゴンゾ・ディジメーション、次に京都アニメーション、そしてXEBECによってアニメ化されてアニメ好きも楽しませた。

 京アニは特に、『フルメタル・パニック? ふもっふ』シリーズで爆笑の学園コメディを描き、続く『フルメタル・パニック! The Second Raid』でハードなバトルとシリアスなドラマを描き切って、スタジオとしての存在感を世に知らしめた。ここでの評価が次に手掛けた『涼宮ハルヒの憂鬱』への関心を誘い、観た人の評価を得て京アニブランドの確立へとつながっていった。「フルメタ」シリーズは平成のアニメシーンも変えた作品なのだ。

 そのシリーズも、2010年刊行の『ずっと、スタンド・バイ・ミー』上下巻でかなめが狙われていた事情が決着を見た。シリーズ自体も2011年刊行の短編集『マジで危ない九死に一生?』で終了。以後、決着から12年後の世界を舞台に、ミスリルで宗介の同僚だったメリッサ・マオとクルツ・ウェーバーが立ち上げた民間軍事会社を舞台に、高校生の市之瀬達哉が戦争の悲惨さを経験していく「フルメタル・パニック!アナザー」シリーズが、賀東の原案・監修で大黒尚人によって書かれたが、宗介は存在を仄めかされる程度だった。

 今度は違う。「感動のクライマックスから約20年後」という設定で、大人になった宗介や、姓を相楽と変えたかなめがしっかり登場してくる。そのまま日常に戦場が混じるギャップを楽しむコメディで進むのか、混迷の世界情勢を映したシリアスな展開に向かうのか、テッサは可愛らしさを増しているのかが気になるところ。「ドラゴンマガジン」2023年9月号掲載の第1話登場を期して待とう。

 一方の「灼眼のシャナ」シリーズ。2023年中に11年ぶりとなる新刊『灼眼のシャナSIV(仮)』(電撃文庫)が出て、令和の世にメロンパンが大好きで、手に大太刀「贄殿遮那(にえとののしゃな)」を持った"炎髪灼眼の討ち手"が復活する。

 第8回電撃ゲーム小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞した『A/Bエクストリーム』でデビューした高橋弥七郎が、2002年に刊行した作品が『灼眼のシャナ』。紅世の徒(ぐぜのともがら)と呼ばれ人の存在を食う化物を相手にした、フレイムヘイズと呼ばれる異能力者に集団に属する少女シャナの戦いが巻を重ねながら広がっていき、クライマックスで双方の勢力が存亡をかけて激突する。

 紅世の徒に存在を食われた人間は、次第に消えてしまって誰の記憶にも残らないという悲劇性があり、そんな悲劇に見舞われながらもある事情から消えずに留まっていた高校生の坂井悠二が、最初はシャナと共に戦いながら、やがて最大の敵となってフレイムヘイズを脅かすようになるドラマチックな展開があって、本編だけで22巻に及ぶ長大なストーリーを最後まで引っ張っていった。

 紅世の徒では"千変"シュドナイや"頂の座"ヘカテー、フレイムヘイズでは"弔詞の詠み手"マージョリー・ドーや"万条の仕手"ヴィルヘルミナ・カルメルといった、マニア心をくすぐる呼び名を持った異能力使いたちが次から次へと登場して絡み合う様も楽しかった。渡部高志監督による3期に呼ぶアニメでは、そんなキャラたちが人気声優の声を得て動き回って戦ってくれた。最高だった。

 2011年に『灼眼のシャナ XXII』が出て、シャナと悠二が新たな場所を得た形となって本編が完結し、翌年にアニメ第3期も放送。短編を収録した『灼眼のシャナ SIII』も出てシリーズとして終幕を迎えた形になっていた。「電撃文庫MAGAZINE」が2020年5月号で休刊となった際に新作短編「クイディティ」を掲載。"その後"のシャナと悠二がどこで何をしているかが描かれたが、誰もが休刊へのはなむけだと感じた。

 それが、新刊『灼眼のシャナSIV』の刊行となったのだから、ファンやラノベ業界の驚きは「フルメタ」シリーズの続行と同格だ。短編集ということで外伝的なエピソードが多そうだが、大好きだった世界に今一度触れられる喜びは存分に味わえるだろう。イラストも変わらずいとうのいぢが担当するなら、シャナや悠二の変わらない姿に再会できるはず。ファンの楽しみは尽きない。

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