『わたしの幸せな結婚』は想像以上のスケールにーーハッピーな最新刊への期待

『わたしの幸せな結婚』最新刊への期待

 顎木あくみの『わたしの幸せな結婚』の人気が続いている。私は、2020年9月に「リアルサウンドブック」の書評で取り上げているが、その時点で第四巻まで刊行されており、すでに大きな人気を獲得していた。また2019年から、高坂りとの作画で始まったコミカライズは、「次にくるマンガ大賞2020」のWebマンガ部門の8位になっている。

 だが作品の広がりは、これだけで終わらない。2023年3月に映画が公開され、テレビアニメも7月から放送される予定である。さらなる話題を呼ぶことが確定している作品を、今回は第五巻と第六巻を中心に、あらためて語ってみよう。とはいえ、最低限の物語世界の説明は必要だ。以前の書評から、第一巻の粗筋を引用させていただく。

 物語のヒロインの美世は、帝都に大きな屋敷を構える斎森家の長女だ。ちなみに斎森家は、代々、異能者を輩出してきた、特別な家である。他にも異能者の家は幾つかあり、帝に重用され、この国に古来より現れる異形を退治してきた。しかし美世には、異能者に必須の見鬼の才がない。幼くして母親が死ぬと、父親はすぐに再婚。父と継母の間に生れた妹には、見鬼の才があった。

 そのような事情に加え、父母の結婚の経緯もあり、美世は斎森家で使用人同然の生活を強いられる。また、継母と妹からは日常的に虐待を受けている。父親は見て見ぬふりだ。しかし美世の嫁入りが決まったことで、すべてが変わる。相手は、冷酷無比と噂される軍人の久堂清霞。異能者で、帝国陸軍の対異特務小隊の隊長をしている。

 大勢の婚約者候補が三日も経たずに逃げだしているという清霞は、初対面から美世に冷たく当たった。だが美世に逃げ帰る先はない。いままでの暮らしから、極端に自己評価の低い彼女は、とまどいながら久堂家で過ごす。そして清霞が、冷酷な人間でないことに気づいていく。また清霞の方も、いままでの女性たちとは違う美世を気にかけるようになる。しだいに清霞と心を通い合わせる美世だが、斎森家や、他の異能者の家の思惑により、清霞と引き離されるのだった。

 引用終わり。以後、美世と清霞は、さまざまな障害を乗り越えながら、しだいに心を近づけていく。この障害の設定が巧みであり、どの巻も楽しく読めるのである。

 さらに注目すべきは、第三巻から続いている、異能教団と、それを率いる甘水直との戦いだ。美世の母親の婚約者候補だった甘水は、ある理由から異能者が君臨する世界を創ろうとしている。第四巻では帝を攫い、実は特別な力を持つ美世も狙っている。このような物語の流れを受け、第五巻から第六巻にかけて、清霞たちと異能教団の激しい戦いが繰り広げられる。国の中枢にまで異能教団が入り込んでいるという状況の中で、苦闘をしいられる清霞たち。そしてついに甘水が、政変を引き起こすのだった(雪降る中での政変は、二・二六事件を意識しているのだろう)。

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