人気の本、なぜ地方の書店では仕入れることができない? 「【推しの子】って、今売れているんですか(笑)」
リアルサウンドブックでたびたび登場している、秋田県羽後町の「ミケーネ」は、人口約1万3000人の農村の田園風景の中に立つ個人経営の書店だ。実は記者が小学校のころから通っている書店で、数多くの漫画との出会いの場を提供してくれた店でもある。今回は阿部久夫店長と、「ミケーネ」で漫画を買うというラブライバーの武田遼哉さんに直撃インタビュー。地方の書店の現状と課題、そして未来について考えてみた。
地方書店はAmazonのVIP顧客!?
――書店に関しては、都心と地方の格差が著しいと言わざるを得ません。おそらく、一般のお客さんは数十万部が印刷されるベストセラーは、どこの書店に行っても並んでいると思っているかもしれません。しかし、実態は人気のあるタイトルほど大都市の大型書店に集中し、地方の個人経営の書店に並んでいないという実態があります。このことは、漫画家や小説家などの作家も知らなかったりします。
阿部:売れ筋を発注しようとしても、取次のサイトで在庫がないと表示されますから、仕入れることができないのです。売りたくても売れない、これではまったく勝負になりません。例えば、ベストセラーの著者のタイトルを並べて、フェアでもやろうと考えるとしましょう。しかし、そもそも仕入れられないので、フェアが開催できないんですよ。
――取次の注文サイトを見せていただきましたが、あれだけ東京の書店に並んでいる本がほとんど在庫切れだったり、注文できなくなっていることに驚きました。阿部店長はそういった本が欲しいという人がきたときは、Amazonから買って渡しているとか。
阿部:今日中に欲しいと言われたら、隣の横手市の大型書店に行ってくれと言いますが(笑)、数日かかってもいいのでどうしても欲しいと言われたら、私がAmazonから仕入れます。仕入れるというよりは、私が普通にお客さんとしてAmazonで買って、届いたものを渡すわけです。
――Amazonから仕入れる本は、年間どれくらいの金額になるのでしょうか。
阿部:昨年度だけで150万円もAmazonから買っています。完全にAmazonのお得意様ですね(笑)。ただし、他の本も買ってくれる常連のお客さんのお願いだから、応えている部分はあります。一見さんのために取り寄せをやるかというと、基本的にできないですね。買った本を受け取りに来ないリスクもありますから。
――Amazonから仕入れる本のジャンルはどんなものですか。
阿部:ベストセラーになっている売れ筋の本ですね。漫画よりも小説などの単行本が多いです。わかりやすく言えば、東京の大型書店だと平積みになっている本(笑)。うちでは並べることすらできないんですよ。
ベストセラーがほとんど並んでない!
――確かに、「ミケーネ」の店内を見ていると、売れ筋の単行本が入荷していないことに驚かされます。漫画では『【推しの子】』は10巻が1冊だけ、『ぼっち・ざ・ろっく!』に至っては、ゼロです。
阿部:『【推しの子】』って、今売れているんですか(笑)。『ぼっち・ざ・ろっく!』は注文ができないので並んでいるのを見たことがありません。
――めちゃくちゃ売れてますよ、『【推しの子】』! 勉強してくださいよ(笑)! 『メイドインアビス』はどうですか? 店内に並んでいませんが。
阿部:取次に在庫がありますね。入れておきます。このように、地方の書店は私のようなお年寄りが経営していて売れ筋をわかっていないことも、衰退の原因の一つだと思います。
――とはいえ、やはり売れ筋の本が配本されないのは地方の書店にとって死活問題です。小説でも村上春樹の『街とその不確かな壁』は並んでいませんし、知念実希人の『ヨモツイクサ』などもゼロ、西野亮廣の『夢と金』などのビジネス書や自己啓発本の類もほぼ配本されていません。ベストセラーの本ほど並んでいてもおかしくないのに、地方が明らかに冷遇されています。なぜなのでしょうか。
阿部:例えば 1000冊配本するとしたら、東京の大型書店に数百冊を一括して送ったほうが売れるでしょうし、返本率も低いのでしょうね。もちろん取次も大変だというのはわかります。田舎の本屋にポツポツ数冊ずつ送る場合の運賃も、取次がもつわけですからね。効率よく配本したいという考えがあるのでしょう。
――その一方で、コンビニチェーンのローソンが地方で「LAWSONマチの本屋さん」という書店併設の店舗を作っています。地方の書店には可能性があるのでは、という見方もできると思います。
阿部:そうでしょうか。コンビニでは雑誌コーナーをなくしたいのが本音だと、ずっと前から言われてきたんですよ。あれだけ売り場面積を使うなら、もっと売れる商品を置きたいと考えるのは自然でしょうから。ローソンが本屋をやろうとしているのは、儲けて売上を伸ばすというよりは社会的に評価されたいという思いがあるのだと見ています。