注目のブックビジネス【後編】「好きなもので共鳴し、本のコミュニティを生み出す」ALL REVIEWS社長・由井緑郎の思い

由井緑郎氏インタビュー

 フランス文学者・鹿島茂氏がプロデュースする2つの本の新ビジネス、書評アーカイブサイト「ALL REVIEWS」と神保町のシェア型書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」は、縮小を続ける出版業界で何を生み出そうとしているのか。鹿島茂氏に話を聞いた前編に続き、後編では両ビジネスの経営を担うALL REVIEWS株式会社社長の由井緑郎氏にお話を伺った。(伏貫淳子) 

収入が1日10円のときもあった

――由井さんは、鹿島さんの構想の具体化を一手に担っておられます。元々出版業界にいらっしゃったんですか? 

由井:いえ。広告代理店に10年程いて、そのあとリクルートで2年ほどコンテンツメディアの仕事をしました。かなりの激務ということもあり、早く自分で何かやらなきゃいかんな、と考えていました。 

――そうして始めたのが、鹿島さんとのALL REVIEWSですね。 

由井:その前に、試験的に鹿島さんの書評をブログに載せてアフィリエイトを付けてみたんです。当時はコンテンツメディアのマネタイズが成り立っていた時代でした。ですが、全然儲からない。そんなとき、ある賞のパーティに鹿島さんのマネジメント担当として一緒に出席し、錚々たる作家や研究者の方々が集まっている光景を見て、皆さんの書評を集めてやってみたらどうなるんだろう、と鹿島さんと話しました。そうして思いついたのがALL REVIEWSです。 

――実務は何人でやっていたのですか? 

由井:僕一人でやっていました。国会図書館に行って、過去の新聞や雑誌から書評をコピーして、家のOCRで文字データに変換し、校正をかけて、記事化して、公開する。1日に7、8本の記事を作って、広告収入は10円のときもありました。書評家の方々に熱い賛同を頂いていてコンセプト自体はいいものなんですが、マネタイズできない。とにかく一人でやり続けている中で、どうしても苦手だった校正だけ、ボランティアでやってくださる方をTwitterで募集したんです。すると、2名の募集に100名くらい応募があった。自分が得意でないことも人によっては得意で、喜んでやってくれる人がいるんだ、そういう人にお願いすればいいんだ、と学びました。 

 そこから、「ALL REVIEWS 友の会」(以下、友の会)を作って、書評家の豊崎由美さんと鹿島さんのYouTube番組を視聴できたり会場に参加できるなどの会員特典を作って会費を頂戴する仕組みを作りました。そうした試行錯誤を重ねて、ようやく昨年から書評家の方々に還元できるようになりました。 

――決して順風満帆ではなかったんですね。そこからPASSAGE by ALL REVIEWS(以下、PASSAGE)に発展した経緯は? 

由井:僕はコワーキングスペースのような場所を作りたいと思っていて、一方、鹿島さんは研究者の体系的な蔵書をそのまま集めた共同書庫をやりたがっていた。そんな時、友の会の方に勧めていただいて、下北沢のシェア型書店BOOKSHOP TRAVELLERさんにALL REVIEWSが棚を借りてみたことがあるんです。鹿島茂特集として鹿島さんの蔵書や著書を置くと、とても売れた。それも、古書店で100円くらいでしか買ってもらえないような本が1000円台で売れる。そのとき、鹿島さんは自分で本屋さんになっちゃえばいいんだ、と発見したんです。同じように、ALL REVIEWSの書評家の皆さんにも自分で本屋さんになっていただいたら、ベネフィットを提供できるだろうなと考えました。そこで、僕がやりたかったコワーキングスペース的空間と、鹿島さんがやりたかった共同書店を合体させて構想したのがPASSAGEです。

PASSAGE店内。各棚には「バルザック通り」「モンテーニュ大通り」などフランス実在の通り名が付けられ、棚主のプロフィールカードが貼られている

――ALL REVIEWSの書評家たちに還元することが PASSAGEの始まりだった。だから、PASSAGEの正式名称は「PASSAGE by ALL REVIEWS」なんですね。 

由井:PASSAGEとALL REVIEWSは切っても切れません。シェア型書店が増えている中で、ALL REVIEWSの書評家の方々の棚があることが差異化になっていますし。 

 ALL REVIEWSも新しいことを構想中です。書評のサブスクリプション化や、書評を書店さんに提供するサービスなどを考えています。 

神保町と学生を繋げるサードプレイスに

――そうして、シェア型という新しいスタイルの書店PASSAGEを作られたわけですが、場所は歴史ある“本の街”神保町の中心、すずらん通りです。神保町という街との関係は意識しましたか? 

由井:はい。PASSAGEをどんな書店にしていくか、友の会の皆さんとslackで話し合っていたとき、「PASSAGEを神保町に作る意味を発信する必要がある」「PASSAGEを一緒に作っていくファンを作っていこう」という意見が出ました。じゃあ神保町の魅力を発信するようなことをクラウドファンディングでやったらどうだろう、ということになって、すぐに立候補してくれたのが、「ふらっと神保町」という大学生のグループの2人でした。

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