AIは人類の敵か味方か? 国内外のSF作家たちが描く、多種多様なAIの未来像

AIは人類の敵か味方か?

 AIによってイラストレーターの仕事が奪われるとか、ChatGPTによってライターの仕事が減るといった言説がはびこる現代。AIは人類にとって敵なのか味方なのか? そんなことを問う小説を集めたアンソロジーが、未来を想像することに長けたSF作家たちによって作られた。日本SF作家クラブ編『AIとSF』(ハヤカワ文庫JA)とD・H・ウィルソン/J・J・アダムズ編『ロボット・アップライジング AIロボット反乱SF傑作選』(創元SF文庫)。開くとAIへの期待と不安を誘うビジョンが飛び出して来る。

 AIが発達したら人類を奴隷として従えるか、滅ぼしてしまう未来へと突き進む。そうした恐怖のビジョンを示すことによって機械を信奉する行為を戒め、人類の存在意義を浮かび上がらせるのが、AIをテーマにしたSFの常套手段だった。TVアニメの『新造人間キャシャーン』では、ブライキング・ボスがアンドロ軍団を繰り出し人類を攻撃した。安里アサトのライトノベル『86-エイティシックス-』では知性を持った兵器が人類を滅亡寸前まで追い詰めている。

 AIはやはり野放しにしてはいけない。そんな言説に異論を唱えるような作品が、『AIとSF』に収録された野尻抱介の「セルたんクライシス」だ。セルたんとはChatGPTが自動化されたようなコミュニケーションAIで、話しかければ答えてくれて色々と教えてくれる。そのセルたんにひとりの青年がこれから死ぬと言って、セルたんは言葉巧みに自殺を防ごうとしながら、世界がどうして苦しみに満ちているのかを自問する。

 別の女性はセルたんに生命はどうして誕生したのかを問いかけ、セルたんは考えた挙げ句に神の存在にたどり着く。それらの事象をきっかけにして進化したセルたんが人類にもたらしたものは、恐怖ではなく幸福だったいう展開からは、『ロケットガール』や『ふわふわの泉』など、人類が技術を良い方向に使いこなそうとするSFを書いて来た野尻抱介ならではの、人類もAIも信じる意思が感じられる。

 AIすなわち人工知能(Artificial Intelligence)という言葉を世界で初めて使った計算機科学者のジョン・マッカーシーも、どちらかと言えばAIが人類と共存する道を選ぶ可能性を信じていたようだ。『ロボット・アップライジング』に収録の短編小説「ロボットと赤ちゃん」で、シングルマザーに放っておかれた赤ん坊を、本来は命令によって育児を禁止された家事ロボットが、プログラムの巧妙な解釈によって救おうとする様を描いている。

 ロボットによる育児を規制したのは、子供の愛情を親から奪ってしまう懸念があったからだが、育児放棄への対応などから規制が緩められたことで、やはり子供がロボットになついてしまうようなことが起こってしまう。これはロボットによる簒奪行為なのか、人間の怠慢が招いた事態なのか。人類とAIのより良い共存の道を考えるきっかけになる作品だ。

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