『タコピーの原罪』からさらに切れ味鋭く 『一ノ瀬家の大罪』タイザン5の底知れない可能性
優柔不断で頼りなく見えた以前のお父さんと違い、現在のお父さんは頼り甲斐も行動力もあり、前回は複雑に拗れていた翼のいじめ問題も学校に出向き、あっさりと解決してしまう。しかし、翼たちは、翔が入れ替わったことに気づいており、以前のお父さんを探そうとするのだが、翔との過去を思い出した美奈子は、存在自体を現在のお父さんに消されてしまう。
そして、祖父の耕三は、この世界はループしており、現在は2000回目の世界だと翼に伝える。物理学者の耕三は世界が巻き戻るごとに世界の詳細を記録し、原因を解明しようとしていたのだが、前回(1999回目)のループで何かを思い出した翔が存在を消され、これまでと状況が変化したことによって、記憶のリセットが起こらなくなったと分析する。
耕三は現在の翔が、この世界の黒幕ではないかと疑うのだが、その直後に、何が起きているのか「教えてよ」と、翼が翔に尋ねる場面を描き、第2巻は終了する。
この展開にも驚いた。『一ノ瀬家の大罪』は先の展開が予測不能であると同時に、普通の漫画なら焦らして引き伸ばすような場面を、ショートカットして一気に結論へと向かう思い切りの良さがある。予測不能でありながら無駄な行間を省いていくため、本誌連載でのスピード感はダントツだ。ここまで週刊連載に特化した漫画は、他にないだろう。
同時に改めて単行本で読み直すと、翔と美奈子の過去の描き方の切れ味の鋭さに感心する。不倫する夫の姿を目撃したことで、逆に夫への愛情を再確認してしまう美奈子の物語は、少年誌とは思えない大人のドラマに仕上がっている。
続きが気になる「引き」の面白さに目が行きがちだが、大胆なコマ割りを駆使して描かれる人間ドラマの鋭さにこそ、漫画家・タイザン5の底知れない可能性を感じる。