『タコピーの原罪』からさらに切れ味鋭く 『一ノ瀬家の大罪』タイザン5の底知れない可能性
タイザン5が週刊少年ジャンプ(集英社)で連載している『一ノ瀬家の大罪』は、記憶喪失の少年・一ノ瀬翼が主人公の物語だ。
病院で目を覚ました翼は、同じく事故で記憶喪失となった、父の翔、母の美奈子、妹の詩織、祖父の耕三、祖母の幸恵と共に家に戻る。しかし、家の中は荒れ果てており、自分たち家族には何か秘密があるのではないか? と翔は悩みながらも、日常生活を送ろうとする。
タイザン5は「少年ジャンプ+」で配信された『タコピーの原罪』(集英社)の作者として知られている。母親からネグレクトを受け、学校ではいじめられている小学生のしずかが、ハッピー星人のタコピーのハッピー道具で幸せになる物語と思いきや、事態がどんどん最悪な方向へと進んでいく本作は、SNSを中心に高い注目を集めた。
『一ノ瀬家の大罪』は『タコピーの原罪』で印象的だった狭い空間を禍々しく描く画面構成や、記号的なかわいらしいキャラクターと残酷で現代的なストーリーのギャップが、より洗練されたタッチで描かれている。何より驚くのが表情の描き方だ。大ゴマで描かれる泣き顔の迫力はバトル漫画の必殺技を見ているようで、圧倒される。
もちろん、予測不能の展開も健在だ。この第2巻では、核となる設定が明らかとなり、物語が一気に加速した。
※以下、ネタバレあり
学校でトラブルを起こした罰として、同級生の中嶋と募金活動をおこなっていた翼は詩織がスーツを着た大人の男と話している姿を目撃する。自分のスマホを見た詩織は、記憶を失う前の自分がSNSを通して複数の男と遭っていたことを知り自己嫌悪を抱くものの、男と逢うことが辞められずにいた。
妹を連れていかないでくれと、男に泣きながら懇願する翼。詩織が中学生だと知った男は立ち去り、問題は解決する。前巻のいじめ騒動の時もそうだったが、主人公の翼が特別な力を持たない無力な中学生であることを本作は徹底的に描いている。だから、トラブルがあっても彼にできることは、泣きながら相手と向き合い、真剣に話すことだけだ。このあたりが他のジャンプ漫画とは違うところで、主人公が特別な力で問題を解決しないからこそ、独自のリアリティが宿るのだろう。
その後、物語の視点は父・翔に移るのだが、ここで本作は超展開を迎える。
車で日光に旅行することとなった一ノ瀬家。楽しい時間を過ごす五人だったが、気が付くと車を運転する翔と翼以外は眠ってしまう。翔は何で自分の過去を知ろうとしなかったのか? と翼に問いかけた後「ごめんね」と言う。
その後、車は事故に遭い、翼は意識を失う。病院で翼は記憶喪失の状態で目を覚まし、同じく記憶喪失の一ノ瀬家の面々と対面する。つまり第1話冒頭の状態に戻ってしまったのだが、父親の翔だけは別人と入れ替わっていた。
この場面を本誌で読んだ時は「こう来たか!」と驚かされた。『タコピーの原罪』でも同じ時間を繰り返すとタイムリープの要素があったため、後から考えると納得の展開なのだが、これまで積み上げてきた物語がリセットされたことで、次週がどうなるのか全く予測がつかない緊張感が、劇中に生まれた。