『タコピーの原罪』に続くジャンプ+の問題作! 『宇宙の卵』が描く「簡易殺人社会」というディストピア

『宇宙の卵』が描くディストピア

 程野力丸の『宇宙の卵』(集英社)が完結した。2022年7月からジャンプ+で配信されていた本作は、社会性の高いSF漫画だ。舞台は1959年のフィリピン。日本人の少年・ルイが、謎の卵を割ってしまったことで全人類に「宇宙の力」が発現し、世界は大きく様変わりする。

 劇中では「宇宙の力」影響で急激に変化していく社会の様子が描かれる。過去のフィリピンを舞台に、その社会で起きる変化を逐一描写していく俯瞰した描写の中で、唐突に暴力が起こるという緩急のバランスが本作の魅力で、『寄生獣』(講談社)や『七夕の国』(小学館)といった岩明均のSF漫画が持っていた、ヒューマニズムと暴力が混在する、乾いた手触りを思い出す。

 巻数も上下巻で、コンパクトにまとまっている。同じように上下巻で完結したタイザン5の『タコピーの原罪』(集英社)や全一巻でまとまった藤本タツキの『ルックバック』(同)、『さよなら絵梨』(同)など、近年の「ジャンプ+」は、コンパクトにまとまった傑作を続々と輩出しているが、この『宇宙の卵』も短いストーリーの中で社会性、哲学性を内包した良質なエンタメ作品に仕上がっている。

※以下、ネタバレあり

 割れた卵の中から暗黒物質が世界中に拡散されたことで、人口の二割が死亡した後、生き残った人類に「宇宙の力」が発現し、誰もが簡単に生物を圧潰することが可能になった「簡易殺人社会」が幕を開ける。

 本作は1959年のフィリピンで起こる物語と同時に、未来の学校の授業で教科書を読みすすめる様子が挟み込まれる。この教科書に書かれた未来の視点から、過去(主人公のルイたちにとっての現在)を記述していく描写がとても効いており、最後まで読み終えると「そういう意味だったのか」と、わかる構造となっている。

 本作を読んでいて感心するのは、圧倒的な構成の上手さだ。デビュー作ということもあってか、画に関しては残念ながら拙い部分が多いが、コマ割りはとても洗練されている。中でも第一話の完成度は圧倒的だ。卵が割れたことで黒い物質が世界中に広がっていく様子を見開きの暗転で描いた後、未来の教科書の記述によって、世界が変貌していく様子を見せていく手さばきは実に見事である。

 同時にセンスの良さを感じるのが「宇宙の力」による暴力描写だ。人間が背中から体をへし折られて押しつぶされていくビジュアルもショッキングだが、誰がいつ攻撃してくるかわからない中、市街を歩いていると、「宇宙の力」を用いた攻撃が唐突に始まり、画面の端っこに映っている人間が押し潰される姿は衝撃的で、この見せ方には才能を感じる。

 何より一番の魅力は、丁寧に紡がれた社会性のあるストーリー。話が進むに連れて「宇宙の力」の正体がじわじわと解明されていくのだが、力の法則性をルイたちから知らされたフィリピン政府は、外出可能な時間と往来する通りを指定して兵士を立たせた「堀」を作り、力を使おうとした人間を射殺する。

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