『タコピーの原罪』はなぜヒットしたのか? 短くも完成度の高い作品が伝えたメッセージ

『タコピーの原罪』が問うもの

 タイザン5の『タコピーの原罪』(集英社、以下『タコピー』)が完結した。昨年の12月10日から漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載がスタートした本作は、ファンシーな絵柄との落差が激しいダークでシリアスな物語が話題となった。

 ある日、小学4年生の女子児童・久世しずかは、ハッピー星からやってきた宇宙人と出会う。宇宙人はしずかによってタコピーと名付けられ、彼女を幸せにするためにハッピー道具を披露するのだが、しずかは感心を示さない。

 実は、しずかの家は母子家庭で生活に困窮していた。父親は家を出て行き、母親は水商売の仕事で家を留守にしており家は荒れ放題。学校では同級生の雲母坂まりなにいじめられており、家にも学校にも彼女の居場所がなかった。そんなしずかを助けるため、タコピーはがんばるのだが、タコピーの善意は裏目に出て、逆にしずかを追い込んでしまう。

 ヒロインの少女の名前が、しずかであることからもわかるように、本作は藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』(小学館)の構造を用いた漫画だが、展開される物語は『ドラえもん』とは違う陰惨なものとなっている。

 背景にあるのは、いじめ、毒親、ネグレクトといった現代の子供を取り巻く過酷な現実。残酷な物語を、記号性が強調されたファンシーなキャラクターで進めていくギャップが独自の魅力となり、連載が始まるや否やSNSで話題を席巻した。

 最終回は3月25日。期間は約3ヶ月半の全16話。コミックスは二冊(上下巻)という短い連載だったが、途中で息切れすることなく最後まで盛り上がった『タコピー』の存在は極めて異例だ。

 吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』(全23巻)を筆頭に、近年のジャンプ漫画は以前に較べて連載期間が短くなっており、人気作でも引き伸ばさずに適切なタイミングで終了している。

 それでも週間連載が人気のある限り続く「終わりの見えない長距離マラソン」であることに変わりはないだろう。対して『タコピー』は、最初にゴールを設定した短距離走を一気に駆け抜けることでSNSの注目を集めており、商業漫画の必勝パターン自体を変えてしまったようにも見える。

 もちろん『タコピー』が上下巻になった背後に、昨年、藤本タツキがジャンプ+で発表して話題になった全143ページの読み切り漫画『ルックバック』の一挙掲載の成功があったことは間違いないだろう。ちなみに藤本は先日、全200ページの読み切り漫画『さよなら絵梨』を再び一挙掲載し、こちらも現在、SNSで話題となっている。

 読み切りと連載の違いはあるものの『ルックバック』、『タコピー』、『さよなら絵梨』が立て続けに盛り上がっている状況をみていると、完成度の高い短い作品が、漫画の主流となっていく気配を感じる。

※次ページより、ネタバレあり

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