記憶喪失、汚部屋、いじめ……『タコピーの原罪』タイザン5の新作『一ノ瀬家の大罪』はさらなる問題作に

新たな問題作『一ノ瀬家の大罪』

 週刊少年ジャンプで連載されているタイザン5の漫画『一ノ瀬家の大罪』(集英社)の第1巻が発売された。

 物語は主人公の少年が病院で目を醒ます場面から始まる。目を醒ました少年は「翼くん」と呼ばれるが、彼には自分の記憶がない。そして翼を含めた一ノ瀬家の家族6人は全員、車の転落事故で記憶喪失となっていた。

 記憶がないものの、それなりに打ち解け、自分たちの家に戻る一ノ瀬家の面々。しかし荒れ果てた家の中を見て、自分たちはなにか「とんでもない秘密」を抱えているのではないかと疑い始める。

 作者のタイザン5は2021~22年に漫画アプリ「ジャンプ+」で『タコピーの原罪』(集英社、以下『タコピー』)を連載。

 ハッピー星からやってきた宇宙人・タコピーがハッピー道具を駆使して小学生の少女を助けようとする姿を描いた本作は『ドラえもん』(小学館)のような児童漫画の型を用いて、いじめ、貧困、ネグレクトといった子どもたちを取り囲む過酷な現実を描いた問題作だった。連載期間は4ヶ月弱で全16話。単行本にして上下巻という短期連載だったが、ショッキングな描写とSF的アイデアを用いた大胆なストーリーが毎回SNSで話題となり、好評のまま連載は終了。長期連載がヒット条件だったマンガ業界で、新しい成功例を生み出したエポックメイキングな作品となった。

 『タコピー』の成功はあまりにもSNSに特化していため、今後もタイザン5は「ジャンプ+」で同じような短期集中連載を繰り返すのではないかと想像していた。

 そのため、週刊少年ジャンプで『一ノ瀬家の大罪』が始まった時は驚くと同時に『タコピー』で見せた作劇手法がどれだけ本誌で通じるのかと心配だったが、これまでのジャンプ漫画とは全く違う大胆なストーリーと作画表現で読者を翻弄する『一ノ瀬家の大罪』は、週刊少年ジャンプの新たな問題作となっている。

※以下、ネタバレあり

 退院した翼は、自分がかつて通っていた中学に向かう。記憶がない翼は親友だと名乗る中嶋に話しかけられて安心する。しかし、中嶋に突然残飯をぶっかけられ、自分がクラスメイトにいじめられていたのだと知る。クラスメイトが笑顔で翼をいじめる描写は、『タコピー』の読者なら想定通りの展開だが、凄いのはこの先である。

 中嶋に鞄を川に捨てられ「拾え」と言われた翼が反抗したことで、教室内での立場はあっさりと逆転、今度は中嶋がいじめられる側になってしまう。謝罪する中嶋を一度は許そうと考える翼。しかし「許すわけ ねーだろ」「土下座 して」「床 舐めろ」と思わず口にしてしまう。

 その後、中嶋と翼は元々同じサッカー部の友達だった過去が描かれる。中嶋はクラスメイトから部活のユニフォームに自分で残飯をぶっかけろと強要されるのだが、最終的に翼が「それは 違うだろ!!」と止めて中嶋と翼は仲直りをする。しかし二人はクラスメイトに激しい敵意を向けられるという後味の悪い結末となる。

 まず、いじめを扱ったエピソードを2~5話に渡って展開したことに驚かされた。週刊少年ジャンプは読者アンケートで人気がなければすぐに打ち切られる厳しい世界である。だからこそ作者は、どうやって読者の人気を掴もうかと序盤は特に頭を悩ませるものだが、主人公の翼がいじめの加害者と被害者の間を行き来する物語を、タイザン5はあえて描いた。

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