酒量が少なくてもアルコール依存症に? 実体験を描いたコミックエッセイがためになる
アルコール依存症は、お酒を飲む量で決まると思っている人は多いのではないだろうか。筆者もお酒に強く、どんどんと飲む人たちが陥る依存症なのだと思っていた。しかし、そうではないようだ。
ネットで話題のコミックエッセイ『人生が一度めちゃめちゃになったアルコール依存症OLの話』(かどなしまる/KADOKAWA)を描いたかどなしまるさんは、決してお酒が強くない。飲み過ぎると吐き、彼女自身も自覚のないまま、仕事や人と接する前にお酒を飲んで、心の痛みを和らげようとした。
しかし、だんだんとごまかしがきかなくなるーー。かどなしまるさんが味わった地獄は、お酒のみならず「依存する」ことの怖さをあぶりだす。
かどなしまるさんがアルコール依存に至ったのは、新卒で採用された会社で働いていたときだった。職場の人間関係は非常に悪く、モラハラに近い言葉、仕事の押し付け、理不尽な出来事に耐えながら、かどなしまるさんは懸命に毎日を生きていた。
ある日、追い詰められた気持ちになった彼女はお酒を飲んで感覚を麻痺させたいと思い、出勤前に牛乳にカルーアを入れて飲んだーーそれが始まりだった。
苦しい毎日をラクにしたい。
これは辛い状況にいながらも頑張っている人なら共感できる人も多いのではないだろうか。真面目で努力家の人のほうが精神的に病みやすいとよく言われているが、私はそれを聞くたびに「真面目で努力家の何がいけないの? いちばん報われるべきなのはそういった人たちなのに」と言い返したくなる。彼ら、彼女たちの努力があってこそ世の中は良い方向に変わっているのだ。
反面、ラクになるための手段を間違えてしまうことに人一倍注意しなければならないのも、こういった真面目な努力家である。かどなしまるさんは、職場で味わう過度なストレスを感じないようにしたい、感覚を麻痺させたいと、飲酒をしてから出勤するようになった。人と接するのが苦手な彼女は、同時に宅配便の受け取り、美容院通いなどもお酒を飲んでからするようになる。
お酒は強くないと自覚している。そのため、よく吐く。それが、「摂取量が少ないので自分はアルコール依存症ではない」という思いこみにもつながっていった。やる気が出ないときにもお酒を飲むようになった時、彼女の飲酒へのハードルは低くなり、とうとう仕事にも影響が出始める。
お酒を飲みたくないのに、飲んでしまう。スマホやSNS依存に置き換えるとわかりやすいかもしれない。やらなければならないことがある……それなのにSNSを見たり、ソーシャルゲームをしたりすることに時間を費やすのを辞められない人が身近にもいるかもしれない。
依存症とまではいかなくても、そういった経験をした人は少なくないだろう。厚生労働省によると依存症はおもにふたつに分けられるという。ギャンブルやショッピングなどのプロセスへの依存、アルコールや煙草を対象にした物質への依存である。
厚生労働省では、どちらにも共通点している点として以下をあげている。
繰り返す、より強い刺激を求める、やめようとしてもやめられない、
いつも頭から離れない
また、物質への依存に関してはこのように書かれている。
依存性のある物質の摂取を繰り返すことによって、以前と同じ量や回数では満足できなくなり、次第に使う量や回数が増えていき、使い続けなければ気が済まなくなり、自分でもコントロールできなくなってしまいます。
まさにかどなしまるさんのことだ。飲酒の回数が増え、自分自身をコントロールできなくなっている。
物質への依存に苦しみ、社会生活が破綻して本人がやめたいと思っても、一度はまれば自分だけではコントロールできない。やがて彼女は依存症の恐怖と対峙することになる。厚生労働省は依存症について「回復することは可能です!」と断言している。
実際にかどなしまるさんは地獄から這い出ることができ、アルコール依存から回復するための道を歩んでいく。LINEマンガなどのコミックアプリの無料部分では、かどなしまるさんが依存症に至るまでが事細かに描写されている。
彼女は等身大の若い会社員だ。依存症が誰の身にも起こりうることだということが、飲み続ける彼女の姿によって証明される。いわゆる「普通」の人が何かに依存するのは決して珍しいことではないと、本作を通して私たちは実感する。大切なのは、その後、彼女が回復に至るまでの道のりだ。作者がどのようにアルコール依存から克服して、自分の大切な毎日、つまり日常生活を取り戻したのかを、ぜひ見届けてほしい。
だれもが陥る可能性のある依存症について、本作から学べることはたくさんあるはずだ。
参考:
厚生労働省 依存症についてもっと知りたい人へ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149274.html