アニメ化迫る『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』は“出オチ”ではないーー“自販機”というモチーフの優秀さを考察

『俺自販機』は出オチではない

 人気ライトノベル&コミックを原作としたテレビアニメ『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』(俺自販機)の放送開始が7月5日に決定。予告PVやキービジュアルが公開されるなど、盛り上がりを見せている。

アニメ「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」本PV 2023年7月5日放送開始!

 人気ジャンルになって久しい「異世界転生」。異世界の勇者から不遇職、スライムにドラゴンまで、各作品の主人公はファンタジー世界でさまざまなものに転生しているが、そのモチーフが「自動販売機」というのはあまりに奇想天外で、一見して出オチ感を覚えてしまう人も多いだろう。しかし実は足腰がしっかりしていて、主人公=ハッコンとその愛らしい相棒=ラッミスの活躍に心が躍り、時に“あったか~い”気持ちにもなれる良作だ。

 交通事故に巻き込まれた“俺”が転生したのは、なんと自動販売機。四角形の無機質な体から発することができるのは、定型文の機械音声のみだ。自力で動くこともできず、コミュニケーションも難しそうだが、そんな危機的状況にも、元“自販機マニア”のアツいサービス精神に火がつく。ドリンクにお菓子、おでんにカップ麺まで、異世界住人の胃袋を掴むうちに、冒険にも参加することになり……。

 小説版とコミカライズ版で若干変わる部分はあるが、あらすじは上記のようなところだ。主人公はもともと自販機マニアであり、その点が“転生を受け入れる早さ”や“順応性”に説得力を与えている。“売り上げ”は経験値としてポイントに変換され、魔力の維持や冒険に有利なスキルの習得、そして自販機の機能拡充、商品の補充なども行われていく。

 異世界転生作品において、舞台は総じて中世程度の文明レベルの世界に設定されることが多く、「現代の知識や技術」を武器に主人公が戦っていく、というコンセプトがひとつのテンプレートになっている。そのなかで、「自販機」というのはなかなか強い。

 現代の食品が持つパワーを駆使するという点では、今年に入ってアニメが大ブレイクした『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の主人公・ムコーダが持つスキル「ネットスーパー」(※現実世界の商品をネットスーパーの容量で自由に取り寄せることができる)に近いものがあるが、「商品を異世界人に積極的に購入させる必要性がある」という点で、世界の傍観者にならない仕組みになっている。調理の必要もなく、物資に困りがちな遠征先でも冷たいスポーツドリンクや酒、温かいおでんやラーメンを実質無制限に提供できるというのは、それだけで戦術が一変するような有能さだ。

 そして、「移動」と「コミュニケーション」という問題を一気に解決し、主人公に「ハッコン」という身も蓋もない愛称をつけて異世界に馴染ませていくのが、方言が愛らしい少女・ラッミスだ。“怪力の加護”を持つため余裕で自販機を運ぶことができ、勘のよさと思いやりで、「いらっしゃいませ」「ざんねん」「あたりがでたらもういっぽん」など、自販機特有の定型文からもその意図を読み解いて“翻訳”していく。ハッコンが獲得するスキルは彼女を守るためだったり、足りない部分を補完するためのものが多く、異世界を席巻するバディになっていくのが痛快だ。

 「自販機」は治安のいい日本でしか成立し得ないと世界から注目されるモチーフであり、また商品の多様さや驚くべきアイデアはYouTuberの定番ネタになっている。さらに、名店のラーメンから焼肉用の生肉まで、“品質(温度)管理ができる無人販売システム”としてビジネスシーンにおいても成長を続けていることもあって、これを主人公にしたこと自体が奇をてらった発想というより、優秀なアイデアに思える。無機質ながら愛らしいデザインに調整されたアニメ版のハッコンがどんな活躍をしてくれるのか、冷たいドリンクがさらに美味しくなる7月を楽しみにしたい。

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