『転スラ』リムル、『とんスキ』スイから『ダイの大冒険』ゴメちゃんまで 「スライム」というモチーフの秀逸さを考察

「スライム」キャラの秀逸さ

 人気異世界転生ファンタジー『転生したらスライムだった件』(転スラ)が2月20日、「小説家になろう」での連載開始から10年を迎えた。同時に「転スラ 10thプロジェクト」が始動し、大型企画が続々発表されており、2023年は“転スラの1年”になりそうだ。

 さて、『転スラ』はタイトルの通り、「異世界に転生したらスライムだった」というところから始まる。「10thプロジェクト」をきっかけにこれからハマる人のため具体的なネタバレは控えるが、“異世界での成り上がり”というイメージを一発で伝える「スライム」というモチーフが秀逸だ。

 モンスターとしてのスライムの歴史は古く、ざっくり言ってしまうと、現在のようなRPG的な世界観での活躍は伝説的テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(1974年)やPCゲーム『ウィザードリィ』(1981年)、アクションRPG『ドルアーガの塔』(1984)などに原型を見ることができる。そして『ドラゴンクエスト』(1986年)以降、鳥山明によるユニークなデザインもあって、ほとんど人畜無害な「愛らしい弱キャラ」というイメージが定着していった。『転スラ』にも「悪いスライムじゃないよ!」という『ドラクエ』のオマージュが見られる。

 さて、そんなスライムとしてファンタジー世界に転生したら「ハードモード」確定のはず。しかし一方で、もともと固定された形状を持たないゲル状の存在であり、かつモンスター界の最下層に位置付けられるスライムは、だからこそ無限の可能性も感じられるのが面白いところだ。有機物も無機物もなんでも食べて吸収する、という特性もイメージしやすく、それを「成長」と結びつけた『転スラ』の主人公・リムルは、スライムの身で異世界の主役になっていく。

 同様のイメージは、現在アニメが好評放送中の異世界作品『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の人気キャラクター「スイ」にも見られる。スライムのなかでも特殊個体と見られるスイは、主人公・ムコーダの従魔となり、女神の加護や、作品のメインテーマになっている「食事」を通じて大きく成長していく。同時に、作品にとってマスコット的な存在になっており、こちらも「スライム」が持つ素朴かつ愛らしいイメージをうまく活かしたキャラクターだ。スイを主人公にしたスピンオフ作品『とんでもスキルで異世界放浪メシ スイの大冒険』も展開されている。

 また、漫画・アニメの中で活躍するスライムといえば、いまも高い人気を誇る『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』の「ゴメちゃん」を思い浮かべる人も少なくないだろう。お馴染みの「ドラクエのスライム」をベースに翼が生えた金色のビジュアルで、世界に1匹しかいないと言われる希少種「ゴールデンメタルスライム」という設定。母数が膨大だからこそ希少種に価値がある、と思えるのもスライムというモチーフの魅力だ。ゴメちゃんが象徴するように、『ダイの大冒険』は人間VS魔物の単純な対立構造を持たず、この点も人間(転生者)とモンスターの共闘関係が描かれることが少なくない、異世界転生作品に影響を与えていると思われる。

 昨今の異世界転生作品においては、「現世の人間が何らかの理由で死亡し、ギフトを持って異世界に転生する→その世界は勇者やモンスターがいて、エルフやドワーフのような亜人種が存在し、魔法やギルドがあるファンタジー世界である」というような設定は“お約束”化して久しく、早々に読者を惹きつけるために端折られるケースも多い。エルフは長寿で賢い、ドワーフはものづくりが巧い……のような設定も説明不要になってきているなかで、多くの文脈とイメージを含み、しかし柔軟性の高い「スライム」というモチーフは、今後も重用されていきそうだ。

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