『PSYCHO-PASS』シリーズ、ノベライズで拡張する世界観 巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉の闇

小説で読む『PSYCHO-PASS』シリーズ

 アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの最新作となる劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の上映がスタート。シリーズ初期からの主人公、常守朱が2019年放送のTVシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』で驚きの境遇に至っていた理由が明かされ、見えなかったストーリーが繋がった。とはいえ、繋がりを理解するためにシリーズを見返すのはなかなか大変。また、アニメだけでは掴みきれない設定もこの作品には多くある。そんな状況を補ってくれるのが、ノベライズやスピンオフといった小説群だ。

 近未来。世界各地で紛争が起こって多くの国々が疲弊する中、日本だけが人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉を導入し、いち早く治安を取り戻していた。

 サイコパス(PSYCHO-PASS)と呼ばれる心理状態の計測値が悪ければ、実際に犯罪を起こしていなくても潜在犯として検挙され、隔離される。〈シビュラシステム〉はさらに、サイコパスから人々の適性を判断し、職業からパートナー探しまで社会のあらゆる物事を判断する。安全だけでなく生活のすべてを日本人は〈シビュラシステム〉に委ねて、平和な日常を享受している。

 AIが急速に発展して、さまざまな分野に取り入れられようとしている現在、その便利さと裏腹の危険性を問う声も出ている。「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズでは常守朱がそうした役割を背負う。最初は、〈シビュラシステム〉が敷いたレールの上をたどって、潜在犯を検挙する厚生省公安局の監視官となり悪と対していた。事件と向き合う中で〈シビュラシステム〉の素晴らしさだけでなく、抱えている問題にも気づいて思い悩むようになる。これから起こるだろうAIに関する議論を先取りしたシリーズとも言えるだろう。

 そんな常守朱の成長が、「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの柱であることは確かだが、加えて登場する大勢のキャラクターたちの誰にもしっかりとしたドラマがあって、過去への苦悩や肉親への愛憎といったものを感じさせてくれる。筆頭が狡噛慎也。潜在犯から選ばれ監視官の下で事件捜査にあたる執行官としてTVシリーズの冒頭から登場し、まさに刑事魂といったものを見せる。新米エリート刑事の常守朱と、ベテラン叩き上げ刑事の狡噛慎也のバディ物といった趣がある。

 もっとも、本編でも示されているように狡噛慎也は、以前は常守朱と同じ監視官だった。それも朱より融通の効かない堅物だった。高羽彩による小説『PSYCHO-PASS サイコパス 0 名前のない怪物』(角川文庫)には、監察官になって5年目の狡噛慎也が登場しては、佐々山光留という配下の執行官相手に、「お前のやっていることは重大な職務規程違反だぞ」と口にする。後に猟犬のような凶暴さで犯罪者を追い、常守朱を嘆かせる男の言葉とは思えない。

 それどころか狡噛慎也は、国外に逃亡して『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』でゲリラに加わって戦い、3部作で描かれた映画の1本『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』で海外の紛争地域を彷徨うまでになる。さらに、公開中の『PROVIDENCE』で日本へと戻って常守朱を守って戦い、『PYSCHO-PASS サイコパス 3』や『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』で外務省行動課のメンバーとして公安局の刑事たちと絡むようになる。

 狡噛慎也変わってしまった理由。すなわち、佐々山光留の身に起こった事態や、狡噛慎也が仇敵として追うようになった槙島聖護との"出会い"が『名前のない怪物』には描かれている。シリーズを常守朱とともに象徴する狡噛慎也という猟犬の、まさに“ビギニング”とも呼べる小説だ。

 ちなみに、『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』も『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』も小説版が出ていて、海外での狡噛慎也の行動を追いかけることができる。その彼が、そもそもどのようにして海外へと脱出できたのかが分かるエピソードも、『PROVIDENCE』で冲方丁とともに脚本を務めた深見真による『PSYCHO-PASS LEGEND 執行官 狡噛慎也 理想郷の猟犬』(マッグガーデン)に収録されていて、映像では見られない彷徨に触れることができる。

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