劇団四季が舞台化する『ゴースト アンド レディ』は優れた恋愛漫画 藤田和日郎が描きたかったこと

劇団四季舞台化の『ゴースト&レディ』とは

『ゴースト アンド レディ』で藤田和日郎が描こうとしたものとは

 さて、この『ゴースト アンド レディ』の見どころといえば、やはりそれは、グレイとデオンの剣による壮絶なバトルシーンの数々ということになるだろう。もともとこの2人には、フローの人生とは関係のない別の“因縁”もあり、そちらの決着にも注目されたい。

 だが、作者がこの物語で本当に描きたかったのは、そうした派手なバトルやアクションではない、という見方もできよう。先にも触れたように、グレイはフローと行動をともにするうちに、徐々に彼女に惹かれていく。かつて人間だった頃、親しい者たち(母親、友人、恋人)に裏切られ続けたグレイは、幽霊になったいまではもう誰のことも信じられなくなっていたのだが、純粋で前向きなフローとの出会いが、彼の閉ざされた心を少しずつ開いていくのだ。

 じっさい、グレイは、当初はフローを殺すという“契約”をしていたにもかかわらず、なんだかんだで彼女を守り続ける。“悪い奴が正義の行いをする”というのは、藤田和日郎の漫画ではお約束の展開ともいえるが、そんなグレイの姿にかの名作『うしおととら』の「とら」を重ね合わせて読むことも可能だろう。

 いずれにせよ、藤田がこの物語で最も描きたかったのは、“誰かが誰かを想う時に生まれる強い力”なのだと私は思う。

 物語の終盤――グレイとフロー双方の想いに気づいている少年・ボブ(=フローになついている少年兵)が、フローにいう。

 「でも、アイツはもう死んじまってるんだ…。どんなに近くにいても、ナイチンゲール様と同じことをするのは、できないですよね……それが…かわいそうだなァって…」

 その言葉に対して、彼女は微笑みながらこう答えるのだった。

 「ねえ、ボブさん。確かに――私は、グレイと一緒のことはできなかったのですけれど……でもね…同じものは…ずいぶんと見ましたよ」

 すごいセリフだと思う。特に、この、「同じものは…ずいぶんと見ましたよ」というセリフを読んだ時、私は心底驚いた。藤田和日郎はなんてものすごい恋愛を描いたのだと、感動した。

 そう、この『ゴースト アンド レディ』は、圧倒的に面白い伝奇漫画やバトル漫画である前に、誰かを愛したことのある人なら、必ずや胸に響く場面が1つか2つはあるであろう、優れた恋愛漫画なのだ。だからこそ、今回、ミュージカルの題材にもなりえたのだと思うし、この先も、末永く多くの漫画ファンから愛されていく作品なのだと私は思っている。

※本文で引用した漫画のセリフは、読みやすさを優先し、原文の一部に句読点を打たせていただきました。(筆者)

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