『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』JOJO・荒木飛呂彦原作の漫画を映画化 注目すべきは少年漫画的な熱き“正義の心”

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

 荒木飛呂彦原作、高橋一生主演の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が、2023年5月26日(金)に公開される。制作陣もNHKドラマ『岸辺露伴は動かない』と同じスタッフが再集結するようだが(監督:渡辺一貴/脚本:小林靖子)、これまでに放送された同シリーズの高い完成度を思えば、大いに期待していいだろう。

 原作は、荒木による同名のフルカラーコミック。2009年、フランスのルーヴル美術館が展開する「BD(バンド・デシネ)プロジェクト」の第5弾として発表された作品だ(単行本はフランス語版が2010年、日本語版が2011年に刊行された)。

 ちなみに「岸辺露伴」とは、荒木飛呂彦の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部に登場するキャラクターで、職業は漫画家。「ヘブンズ・ドアー」という「スタンド」(ドラマでは「ギフト」)を使い、人を「本」に変え、その記憶を読み取ったり、行動を操ったりすることができる。

 『岸辺露伴は動かない』は、そんな彼を主人公にした「ジョジョ」シリーズのスピンオフ的な連作であり、これまで(グッチとのコラボ作品を含め)11[※]のエピソードが発表されている。また、それ以外にも、北國ばらっど他数名の作家によるノベライズ版(短編小説集)も刊行されている。
[※]『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を加えれば12のエピソードとなる。

岸辺露伴の“青春の慕情”とは

 なお、漫画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に登場する岸辺露伴は、「ジョジョ」本編の岸辺露伴とはパラレルな存在であると考えたほうがいいだろう。

 たとえば、「ジョジョ」本編では、露伴は16歳で漫画家デビューしているのだが、『ルーヴルへ行く』では、17歳の夏の時点でもまだ投稿作を描いている(その年の秋の終わりにデビューするという設定になっている)。また、「へブンズ・ドアー」を使えるようになった年齢と経緯も、両作では異なっている。

 とはいえ、岸辺露伴は岸辺露伴だ。当然、変わらない部分もある。それは、尽きることのない持ち前の「好奇心」と「行動力」、ということになるだろう(岸辺露伴は動かない、とはタイトルばかりで、実際の露伴は結構“動く”のである)。

 彼は、リアルな漫画を描くための「取材」には一切妥協することなく、それが危険な場所であればあるほど、むしろ好んで足を踏み入れる。そして、その「危険な場所」が、この『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では、タイトル通り「ルーヴル美術館」、ということになるのだ。

 そこには呪われた「この世で最も黒い絵」があるという。それは、漫画家としての「好奇心」だけでなく、彼の(忘れていた)「青春の慕情」を刺激する美術作品でもあった……。

 そう、この『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では、17歳の頃の露伴と、漫画家になった27歳の露伴が描かれており(フルカラーコミックという特性を活かし、2つの時代は“色分け”されている)、基本的にはいつものおどろおどろしい「奇妙な冒険」が描かれてはいるのだが、珍しく(?)少年時代の淡い初恋めいたエピソードも織り込まれているため、シリーズの他の回ではあまり見られない彼の新たな顔を見ることができるだろう。

高橋一生の演技の凄み

 さて、最後に、実写版の『岸辺露伴は動かない』に話を戻すが、やはりなんといっても素晴らしいのは高橋一生の演技だ。あらためていうまでもないことだが、荒木飛呂彦が描く岸辺露伴の容姿と、高橋一生本人のそれはさほど似てはいないのである。しかし、ドラマの映像を見るかぎり、画面の中で動いているのはまぎれもない「岸辺露伴」だった。

 そのわけは、高橋が、原作を丁寧に読み込んでいるだけでなく、岸辺露伴というキャラクターが潜在的に持っている“ある面”を見事に再現しているからだと私は思う。それは、ひと言でいえば、彼の核の部分にある揺るぎない“正義の心”だ。

 たしかに、岸辺露伴といえば、もともとは主人公(東方仗助)たちの敵として登場した“悪役”であり、その後も、敵か味方かわからない、善と悪の両義性を持ち続けたある種のトリックスターではある。しかし、彼は、自らが信じる正義の心(それは一般的な法や秩序とは別物である)には逆らうことなく、ここぞという場面では、命を賭して、他者を、世界を、守ろうとするのだ(有名な「だが、断る」も、そういう局面において出た台詞だ)。

 そう、高橋一生は、一見、浮世離れした“オレ様”、あるいは、好奇心の赴くままに生きる奇人を軽妙に演じているように見せながら(それはそれで、岸辺露伴の魅力の1つではあるのだが――)、実は、極めて少年漫画的な熱い“正義の心”をも表現しているのだ。凄い役者だと思う。

 5月の映画公開が、いまから楽しみでならない。

■公開情報
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
5月26日(金) 公開
出演:高橋一生、飯豊まりえ
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
配給:アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
©2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
公式サイト:kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp

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