文学フリマ代表・望月倫彦が語る、リアルなイベントの価値 「文章を書く人の数は今が一番多い」

文学フリマ代表・望月倫彦インタビュー

インターネットがあることで相対的に文学フリマの存在感も増している

――文学フリマのこの20年間で、創作系、批評系の傾向は、どのように変化しましたか。

望月:秋葉原やPiOの時代は文学フリマの潜在能力を活かしていなくて、まだ全ジャンルに増える余地があったと思います。秋葉原の頃は批評系の人たちの感度が高くて、文学フリマという場所があるぞと先にワーッと入って来た。むしろ最近は、批評系が減ったといわれます。でも、それは先がけて多かった批評系が減ったというより、ほかが増えたんです。会場が移り、規模が大きくなると小説系が増えて、そこが一番伸びる分野だった。

――割合は減っても、「すばる」のすばるクリティーク賞や「群像」の評論賞がなくなった今、文学フリマは批評志望者の発表の場であり続けていますね。他分野はどうですか。

望月:詩歌もほかにイベント的な場所があまりなくて、文学フリマが大事な場所になっているようです。東京の年2回は、新人の作品が多く出る時期だと認識されていると、短歌をやっている方から聞いたことがあります。

 ここ数年は、ノンフィクション系の伸びが目立ちます。noteの影響かと思いますが、こだまさん(エッセイ『夫のちんぽが入らない』など)のような成功例が出たのが大きい。ウェブで身辺雑記を書いている人たちにとっても「文学フリマで本を出す手があるのか」みたいな意識が広まったのかもしれません。活字離れといわれて何十年も経ちますが、逆にウェブ、SNSが日常になって自分の文章を他人に見せる行為が当たり前になっている。それだけではない文字の場所として文学フリマが選ばれる流れもできている。インターネットがあることで相対的に文学フリマの存在感も増していると感じます。

――知名度があるプロの文筆家の参加は初期からありますが、それは自由に参加してもらって、ただブースの配置を考慮するという。

望月:そうそう。基本的に有名な人に出てくださいとお願いしたことはないです。申込の名前を見てビックリが多い。近年は、こだまさんのように文学フリマをきっかけに本が出てベストセラーになった例もあった。今年の芥川賞を受賞した高瀬準子さんもそうで、順番的に文学フリマが先というパターンが増えて、ありがたいことだと思っています。

――2010年のサークルカタログの巻頭言で「ネット上で新しいムーブメントが起きると、文学フリマも盛り上がる傾向にあります。文学フリマ立ち上げ当初なら「はてなダイアリー」、今年なら「Twitter」や「電子書籍」でしょう」と書かれていました。この頃には、ゲームクリエイターの米光一成氏が電子書籍を対面販売するという斬新な試みがあったりしましたが、ネットやデジタルと文学フリマは意外に相性がいい。

望月:今でもそのへんは続いていて、企業との話でいえば「小説家になろう」「エブリスタ」「pixiv」などとコラボ的な動きがありました。やはり人間がやることである以上、一堂に会する場、リアルの場が必要になる。インターネットが裾野を広げたことで、文章を書く行為をしている人の数は今が逆に一番多いでしょう。そこに文学フリマがあるから、「じゃあ本を買いに行ってみようか」、「自分も本を作って出せるんだ」という場になっている。

 告知に関しては、公式サイトとツイッターを重視しています。アンケートや会場でのインタビューで僕らも傾向を探っていますが、データでは知っている人のツイッターをきっかけに来る人が圧倒的に多い。フェイスブックでもTikTokでもなくツイッターなんです。

5年、10年で結果を追い求めるものではない

文学フリマのマスコットキャラ

――文学フリマ事務局は、今年8月1日に一般社団法人化しましたが、その理由は。

望月:規模が大きくなりすぎたこと、国の法律が任意団体というものを許さなくなってきていることが理由です。マネーロンダリング問題とかのせいで、口座が作れない。例えば、文学フリマ広島の名義で口座を作るのがとても大変だったんです。任意団体の口座がいずれ持てませんといわれる日も近いのでは、と思っています。また、インボイス制度は、任意団体や個人事業にとって難しいものになる。文学フリマの継続性のために一般社団法人化する必要があった。

 以前から法人化を考えているなかでコロナ禍に見舞われ、2020年5月の東京開催は中止しました。以後は感染対策をしながらの開催でしたが、先の展望はどうか、同年の段階では迷っていました。世間では、ウェブ会議も当たり前になったし対面の時代は終わった、日本は変わったとまことしやかにいわれていたでしょう。でも、2020年11月、2021年5月の東京開催で人は戻って来た、大丈夫だ、法人化は今がいい、遅かったくらいだと思いました。

――現在、事務局は何人ですか。

望月:一般社団法人としてのメンバーは、僕ともう1人の2人。あとはボランティアスタッフがいて、東京だけでも20人くらいです。僕はイベント会社で仕事していますし、法人化しても文学フリマの方は兼業です。だから、よくわからない人間になっちゃって名刺を3種類持っています(笑)。

――今後の目標は。

望月:今度の東京の11月20日開催では、出店者数が1200以上になり、記録を更新しています。コロナ禍でいろいろなイベントがシュリンクするなか、文学フリマが先んじて増加傾向に転じている印象がありますし、東京開催もより大きくしていきたいですね。

――いわゆる同人誌のイメージは、過去と様変わりしたのではないでしょうか。

望月:かつて「文學界」に毎号載っていた同人雑誌評は2008年で終了しました(以後は「三田文学」が引き継いだ形)。文学フリマにかかわっていて、あの月評が文芸同人誌の現在を映しているのだろうかと感じていました。僕は文学フリマで自分たちの活動を続ければ参加者は増えるだろう、でも文学というものをやっている以上、わずか2、3年で結果を追い求めてもダメで、何十年という期間でやれば有名人の1人や2人は出るだろう、芥川賞作家が出るには50年くらいかかると思っていました。だから、20年くらいで今ほどの方々を輩出しているのは予想よりいいペース。とはいえ、5年、10年で結果を追い求めるものではないと、今でも思っています。

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