モデル・小谷実由 初エッセイ集「ありのままの自分を表現できる場所に出会って軽やかになれた」

小谷実由『隙間時間』インタビュー

 “おみゆ”の愛称で親しまれる、モデル・小谷実由による初のエッセイ集『隙間時間』(ループ舎)が、2022年7月29日に刊行された。シューズブランド「NAOT JAPAN」公式ウェブページでの3年間に及ぶ連載をまとめ、書き下ろしエッセイ、録り下ろしインタビューを追加。撮り溜めた写真も多数収録した、豪華な内容となっている。

 20代の終わりから30代始めにかけての、日常の断片や心のつぶやきが、ありのままに綴られた同書は、おみゆファンだけでなく、さまざまな読者の心を緩めてくれる。「自分自身を出せる場所だった」――小谷は、連載の「場」をそう語ってくれた。すべてにおいてこだわり抜かれたデビュー作、そこに込められた思いを伺っていく。

「隙間時間」ってすごく味わい深い言葉


 ――まずは『隙間時間』刊行、おめでとうございます。書籍の元となった「NAOT JAPAN」での連載が始まったきっかけを教えてください。

小谷:ありがとうございます。いろいろなクリエイターの方が、街を散歩する「さんぽびより」という連載に、イラストレーターの「とんぼせんせい」が私を呼んでくださって、そこでNAOTさんと出会いました。撮影のすぐ後、「エッセイの連載をしませんか?」と、声をかけていただいたんです。

――テーマが「隙間時間」になった経緯は何だったのでしょう?

小谷:お話をいただいたときは、「靴のブランドなので、靴の話かな?」と思っていたんですが、「私が隙間時間にどういうことをしているのか」を、担当編集者さんが気にしてくださっていたみたいで。NAOTさんのウェブページでは、散歩など「外」に向かって打ち出すような企画が多い印象でしたが、逆に「内」に向かうコンセプトがおもしろいなと思いました。そうした流れで、「隙間時間」をテーマにまずは1年、連載させていただくことになりました。

――隙間時間に向き合ってみて、どうでしたか?

小谷:実はそれまで、隙間時間について考えたことがなかったんです。なので、隙間時間を自分がどう過ごしているか意識する、いい機会になりました。でもわりと最初に気付いたのが、私にはそんなに隙間時間がなかった。時間が空くと、新しいことをポンポン始めてしまうんです。空き時間が短いと、やりたいと思うことが十分にできないから、実行に至らなくて結局寝てしまったりして。隙間時間を全然上手く使いこなせていなかった。結果、1年後に、隙間が苦手だということをエッセイの中で告白するんです(笑)。

――隙間時間がない人、意外と多いかもしれないですよね。

小谷:意識しないと生まれない時間ですよね。だからこそ「隙間がない」と、おざなりにするのではなく、ちゃんと使うか、休むに徹するか、時間の使い方を考えるようになりました。もともと読書は好きだったんですけど、隙間時間を活用して本も読むようになりました。隙間時間って、すごく味わい深い言葉。一筋縄ではいかない存在です。

薬味への愛をさらけ出した「薬味丼」


――書籍化が決まったのは、いつ頃だったのでしょう?

小谷:連載を始めて半年ほど経ったとき、担当編集者さんから「もうちょっと長く連載して、書籍化しませんか?」とお誘いをいただきました。いつか自分の本を出してみたいと、なんとなく思っていたけど、どんな本なのか何も考えたこともなかった時期でした。でも、そう言ってくださるなら、ぜひやってみたいです!、とお答えしました。

――モデル業と執筆業、向き合い方は違いますか?

小谷:モデル業は服を見せることがいちばん大事なことで、自分を見せることはあまり考えたことがなかったんです。エッセイの連載のお話をいただいたとき、いちばん最初に感じたのは、やっと自分を知ってもらえる機会ができたということ。その実感はすごくあって、嬉しかったですね。それまでも喫茶店にまつわるコラムを寄稿したり、インタビューでお話する機会はありましたが、エッセイの連載という大がかりな場で自分の内側を出すのは、初めてのことでした。

――確かに『隙間時間』には、休日に明太子おにぎりをつくる紆余曲折が綴られた「おにぎり」など、親近感を覚えて心が緩むエピソードが満載です。ちなみに、小谷さんが好きなエピソードは何ですか?

小谷:「芽ネギの寿司」です。書いていて、いちばん楽しかったのが、この文章。これから1つのものしか食べられないとなったときに、何を食べるだろう、といったことをよく考えるんですけど、私にとっては、その答えが芽ネギの寿司なんですよね。

 偏愛について考える「偏愛時間」をテーマに文章を考えていたとき、私、めちゃめちゃ芽ネギの寿司が好きだなと思って。エッセイの中では、芽ネギの寿司のくだりから、薬味が好きすぎて薬味だけの丼が食べたい、という思いも告白しているんです。同じ答えの人に出会ったことがなかったので、周りの人に引かれないか気にしつつも、思いの丈をぶちまけました(笑)。

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