俳優・岸井ゆきのが語る、フィクションの世界に惹かれる理由 初のフォトエッセイ『余白』刊行

岸井ゆきのインタビュー

 2009年のデビュー以来、ドラマや映画、舞台と幅広く活躍する俳優の岸井ゆきの。2022年も、映画「神は見返りを求める」「犬も食わねどチャーリーは笑う」「ケイコ 目を澄ませて」やドラマ「恋せぬふたり」「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」など出演作が目白押しだ。そんな大きな注目を集める彼女の初フォトエッセイ『余白』(NHK出版)が7月15日に刊行された。 

 本書には、デビューのきっかけや出演作品との向き合い方など仕事にまつわるエピソードから、子ども時代の思い出、家族や友人への思いなどプライベートなことまで、岸井が素直な言葉で綴った内なる思いが詰まっている。本のことはもちろん、大好きな映画のことやフィクションの魅力などについて、等身大の言葉で語ってもらった。(イワモトエミ)

自分の思いを言葉にすること

――まずは初フォトエッセイの刊行、おめでとうございます。はじめてご自身の本を作られていかがでしたか。

岸井:もともと私は、人に相談したり、思ったことをいっぱい話したりするタイプではないので、自分が考えていることを言葉にする作業はすごく新鮮でした。改めて言葉にすることで、「私って自分のことをこんな風に思っていたんだ」と確認できて、なかなか面白かったです。 

 でも、自分のことが本になって、表紙も自分で、自分の言葉がこの本の中に詰まっているというのは、いまだになんだかちょっと恥ずかしいですね。 

――本書には、役者という仕事に関することからプライベートなことまで、幅広いトピックスのエピソードが53編収録されています。どんな基準で選んだのでしょう? 

岸井:担当編集者さんとたくさん話をして、面白がってくれたトピックスを選んで文章にしました。ふだん自分が考えていることをあまり他人に話さないというのもあって、私が思うことを他の人が面白がってくれるのか分からなかったんですよね。 


――こんな話を面白がってくれるんだと意外に思ったものはありますか。 

岸井:ほとんどがそうかもしれない。私の話を聞いて面白いと言ってくれること自体、「助かる!」という感じです(笑)。 

――(笑)。中でも、今回の本に収められてよかったと思う一編は? 

岸井:うーん。一つに絞るのは難しいですね。あ、でも、「夕暮れと大晦日が怖い」に綴ったあの怖さは、みんなにも本当に分かってほしい。夕暮れは、なんだか太陽に試されている感じがして怖いんですよ。 

――「終わり」を感じさせますもんね。一日で何をどれだけ成し遂げたんだと言われているような。大晦日も一年で何をやったのかを問われるような感じがありますし。 

岸井:夕焼けを見ると「やめてー!」って、なります(笑)。それで、次の日になると「ああ、朝よ、ありがとう」ってなる。同じ太陽なのに、そんな風にいくつも顔があるとちょっと恐ろしくなります。 


――他に、自分のこの思いを言葉にできてよかったというものは? 

岸井:「大事なことほど、しまいこむ」という一編ですかね。私は昔から自分が思っていることや大事にしていることって、あまり人に話せない性質なんです。全く話したくないというわけではなくて、一つ話しちゃったら、全部は守れなくなるような気がしてしまって。私の全てを見られてしまう、裸を見られてしまうような気分になるんですよね(笑)。そういうのもあって、ひとりで考えた方が大事にしやすいと思っていて……。そのことをこの本で言えてよかったな、と。友だちに対しても、ただ性格的に言えないだけで、仲がいいのに話さないっていうわけじゃないんだよと、表明できたんじゃないかな。 

 でも最近は、もうちょっと話していきたい、ガードを緩くしていきたいとも思っています。そんな思いも含めて文章にしたことで、自分自身もこれまでの殻を破って何か一つ抜け出したい。ゆっくりでいいから、踏み出したいんです。 

――そのちょっとした気持ちの変化を岸井さんにもたらしたきっかけは何なんでしょう? 

岸井:私があまりにも自分のことを言わないものだから、逆にまわりに気をつかわれているような感じがしたんですよね。この人にはこういう話は聞かない方がいいんだなっていう空気って、何となく分かるじゃないですか。そういう空気を薄々感じていたところ、友人からまさに「自分のことは聞いてくれるなという空気はちょっとあるよね」ということを初めて言われたんですよ。シリアスな感じではなくて、さらりと。それを聞いて、あ、私がいけないんだと思って(笑)。 

 そう言ってくれた友人は頻繁に会ってよく話す親友というわけではないんですけど、少し離れた場所からもそう見えるということは、もうちょっと私との距離が近い人たちはそんな私を知っていて何も聞かずにそのまま受け入れてくれているんだと、気付かされました。それで、そういった線引きみたいなものをちょっとずつなくしていきたい、自分が考えていることや感じていることを少しずつ人に話したいという気持ちが芽生えてきたんです。 
 
 あるとき、ずっとモヤモヤしていたことを親友に話してみたら、お互いに「え?こんなこと思っていたんだ」ってなって。私自身も自分の中にずっと閉じ込めていたことだったから、言葉にすると「私ってこんなこと思っていたんだっけ?」というようなことがワーっと出てきて、すごく不思議な時間でした。私はいろんな感情をひとりで抱え込むのはわりと得意で、たいてい映画を見れば抱え込んだものを濾過できるんですよね。でも、ひとりでは濾過しきれなかった感情を自分の言葉で親友に話すことで、少しすっきりできたんです。

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