『異世界薬局』から『オーバーロード』まで アニメと原作を行き来して楽しめる、ラノベの人気作を徹底解説

アニメ原作のラノベを徹底解説

 テレビやネットで見られるアニメにはライトノベル原作のものがいっぱい。映像と音声で表現された物語に触れることで、原作への興味を持つ人も多いだろう。現在アニメが展開中の作品や、秋からアニメ化される作品を並べて、ストーリーや設定の面白さ、キャラクターのすごさ、そして原作はどこまで進んでいるのかを紹介してみた。

 前世の知識や経験を、転生や転移した異世界で生かして成り上がっていくストーリーは、今やラノベでは定番中の定番。7月からアニメがスタートした高山理図原作の『異世界薬局』でも、薬学研究の最先端にいた研究者が過労死で倒れて目覚めると、中世のような世界で自身は宮廷薬師の息子のファルマになっていた。

 水や火を自在に発生させて操る「神術」が使える世界で、薬師は医師の役割も担って病気を治療し、薬を調合して信頼を得ていた。もっとも、現代の知識を持つファルマには、まじないは体力の回復に頼る対症療法に過ぎないものに見えてしまった。そこでファルマは、記憶していた構造式から薬を調合するチート技を繰り出す。アニメでは皇帝が罹っていた不治の病をその技で治してみせる。

 現代科学の知識で病気を克服していく展開は、力で強敵をねじ伏せるバトル物に負けない興奮をもたらしてくれる。存在が知られていなかった病原菌やウイルスを叩く薬剤を合成して作り出すファルマは神か悪魔かといった畏怖される存在。それでも、病を治したいという思いで共通するなら、受け入れ治療を任せるファルマの父親や皇帝の合理的なスタンスからは、上に立つ者に不可欠な度量を学び取れる。

 最新刊『異世界薬局 8』では、ファルマの見識に影響され、化学物質を次々と作り出す錬金術師も登場して、科学者ならではの知的好奇心の旺盛さを感じさせる。もっとも、最新刊で訪れることになる新大陸では、伝統を大切にする種族が現れ科学万能に偏りすぎたファルマのスタンスに疑問符がつきつけられる。薬学への興味を誘ってくれる物語であり、科学と人の幸せの関係について考えさせてくれるシリーズだ。

 7月スタートのアニメでは、『転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~』も進行諸島の小説が原作。ブラック企業で働いていた佐野ユージが異世界に召喚され、魔物使い(テイマー)という強さとは無縁の職業を割り当てられながらも、仲間にしたスライムたちを巧みに使って強大な力を獲得していく。

 アニメでは、ユージが街を結界で覆った上で、群がってきた敵を焼き尽くす大技を連発する最強ぶりを見せるところから始めて、強そうに見えないヒーローが実は最強といった楽しさを感じさせてくれる。原作は魔導書を読破しスライムやウルフを従え強さを発揮するようになった先、自分を襲う謎の組織に立ち向かうための方策を練る展開が、最新の『転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~11』で描かれる。

 7月に4期目となるアニメシリーズ『オーバーロードⅣ』がスタートした丸山くがね原作の『オーバーロード』。小説は6月に『オーバーロード15 半森妖精の神人[上]』、7月に『オーバーロード16 半森妖精の神人[下]』が最新刊として刊行され、リ・エスティーゼ王国を滅ぼした魔導王のアインズ・ウール・ゴウンが、人間時代の習慣を元に有給休暇を取りたいと願い、配下にあって少年少女の姿をしたアウラとマーレを連れてエルフの国へと向かうストーリーが描かれる。

 その前の『オーバーロード14 滅国の魔女』では、アインズの強さを知る王国の第二王子ザナックがアインズに降伏を告げに敵陣に向かう描写などが登場。王族が持つ尊厳のようなものを感じて、ただのゲームプレイヤーに過ぎなかったアインズが、取り込まれたゲームの世界で魔導王としての存在感を高めていく様に触れられる。一方で、アインズや魔導国の宰相アルベドに匹敵する強さを持った戦士も現れ、当初はゲーム内に閉じ込められただけだと思っていたアインズの見方がどんどんと覆されていく。

 この世界に、自分のように取り込まれた他のゲームプレイヤーはいるのかといったアインズの疑問にも、進んでいくストーリーの上でいずれ明らかにされそう。第4期のアニメでは、後に王国滅亡のきっかけを作る下級貴族の三男のフィリップが登場して、権力に溺れ腐敗する人間の弱さを見せる。仲間の降伏こそが絶対だと訴え、そのためには人間を皆殺しにして悔いないアインズの方が、魔族でありながらも生き方に筋が通っているのは、現実にもいろいろと行き詰まっている人間社会へのカウンターなのかもしれない。

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