森田真功の平成ヤンキー漫画史【第1回】:平成に取り残された『東京卍リベンジャーズ』
冒頭でコミックスは5000万部を突破していると述べた。人気の度合いから考えると、これはますます伸びるであろう。5000万部超という数字は、ヤンキー・マンガのジャンルにおいて歴代でもトップクラスに入るものだ。それどころか、後世では最も読まれたヤンキー・マンガになりうる可能性さえ含んでいる。一つ確認しておきたいのは、数千万部の規模で売れ、ヤンキー・マンガを代表するようになった作品の多くが実は平成に連載されていたという事実である。軽く例を挙げよう。
森田まさのり『ろくでなしBLUES』(1988年〜1997年)
田中宏『BAD BOYS』(1988年〜1994年)
西森博之『今日から俺は!!』(1988年〜1997年)
加瀬あつし『カメレオン』(1990年〜2000年)
藤沢とおる『湘南純愛組!』(1990年〜1996年)
高橋ヒロシ『クローズ』(1990年〜1998年)
佐木飛朗斗(原作)所十三(作画)『疾風伝説 特攻の拓』(1991年?1997年)
いうまでもなく、平成とは1989年1月8日から2019年4月30日までの間を指す。1988年=昭和63年に連載が開始された作品もあるが、連載の期間はほぼ1989年=平成元年以降で占められていることがわかる。並びの中にあれが入っていない、これが抜けているじゃないか、という指摘は、さしあたりどうでも良い。重要なのは、これらヤンキー・マンガとして大勢に周知されているだろうタイトルが、1990年代、すなわち平成の初期に集中している点なのだ。ヤンキー・マンガというと、どうも「昭和」のイメージで語られがちであるけれど、実際にムーヴメントと呼ぶのに相応しい活況は「平成」に起こっている。仮にそもそものモチーフとなっているヤンキーという文化やヤンキーという語彙が昭和の末期である1980年代に由来しているのだとしても、それを平成の時代へと橋渡しし、継承させるような働きの一端を1990年代初頭のムーヴメントは担ったのであった。
そこから二十数年後、平成に閉じ込められた不良少年たちを『東京卍リベンジャーズ』は描く。これがどのような意味を持つのか。
換言するなら、平成の終わりに発表され、令和のはじまりに支持されているヤンキー・マンガのとある作品がどのようなヴィジョンを未来に残そうとしているのかということだ。それを検討するためには、やはり、ヤンキー・マンガのこれまでを洗い直してみる必要がある。過去に立ち返ることで今までにない一歩を踏み出していくタケミチよろしくヤンキー・マンガの辿ってきた軌跡を振り返る必要がある。最善の手続きは、多分、他の作品と『東京卍リベンジャーズ』との対照を通じて、平成のおよそ30年間にヤンキー・マンガが一体何を描いてきたのかを掘り下げることであろう。無論、それはヤンキーという文化の再考であるよりもヤンキー・マンガという文化の再考を試みるものである。