森田真功×藤谷千明『東京卍リベンジャーズ』対談 「平成のヤンキー漫画の総決算と呼べるものになっている」

森田真功×藤谷千明『東リベ』対談

 ヤンキー×タイムリープという異例の設定が話題を呼び、2021年を代表するヒット漫画となった『東京卍リベンジャーズ』。連載はさらにヒートアップした展開となり、ますます注目を集めている同作だが、そのヒットの背景にはどんな意味が読み取れるのか。ヤンキー漫画マニアとして知られるライターの森田真功氏とオタクカルチャーに詳しいライターの藤谷千明氏が、『東京卍リベンジャーズ』について大いに語り合った。(編集部)

ヤンキー漫画は平成のカルチャー

藤谷:『東京卍リベンジャーズ』の単行本売上は累計4000万部を超え、アニメはNetflixなどの配信ランキングで常に上位にあがっていますし、7月に公開された実写映画も興行収入50億円を突破したそうで、今年の実写邦画では現在首位です。なお、昨年の実写邦画の1位は『今日から俺は!!』でしたが、90年代のヒット作のリバイバルではなく現行の連載作で、ここまで大ヒットしたヤンキー漫画は久しぶりなのではないでしょうか。ちなみに、「現代ビジネス」での担当編集者土屋一幾氏のインタビュー(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84494)では、5巻あたりから「ヤンキー」というワードをあえて外したとあるものの、どう考えてもヤンキー漫画の範疇に入るので、本記事では「ヤンキー漫画」として『東京卍リベンジャーズ』を語ります。

森田:『東京卍リベンジャーズ』は、ここ十数年のヤンキー漫画を代表するような存在になりましたね。その他にも「週刊少年チャンピオン」の『六道の悪女たち』が累計300万部を超えていて、決して無視してはいけない規模のヒットですし、長期連載だった『ギャングキング』も約1200万部を超えています。実写化やアニメ化などのメディア・ミックスなしで、それだけ売れたというのは立派だと思います。どちらも今年完結した作品ですが、2010年代のヤンキー漫画を見る上で外せないのではないでしょうか。

藤谷:おっしゃるとおりで、『六道の悪女たち』も『ギャングキング』も、そして『東京卍リベンジャーズ』も、「闇堕ち」しそうな不良少年少女を、いかに「こちら」側というか一般社会の側に引き止めるかが大きなテーマになっています。2010年代に連載されていたヤンキー漫画の共通点はそこかもしれませんね。『ギャングキング』はおっしゃるように長期連載なので、「ヤングキング」連載開始は2003年ですが。(※その後講談社に移籍し「マガジンスペシャル」〜「別冊少年マガジン」〜「イブニング」)

森田:ただ、ヤンキー漫画原作でアニメ化された作品ということであれば、過去に遡ってみても『東京卍リベンジャーズ』のヒットは最大レベルといえますね。

藤谷:そもそも、これまでのヤンキー漫画のアニメ化の主戦場はOVAだと記憶しています。TVアニメになったといえば、『湘南純愛組!』の続編にあたる『GTO』くらいでしょうか。不良少年を主人公にしたマンガがテレビアニメになったケースは、「珍しい」というか、「なかった」と言っていいのでは。『東京卍リベンジャーズ』には暴走行為などについて注意テロップが入ってますが、むしろ「注意書きを入れるくらいで放送できるんだ!」と驚いています。

森田:昔と比べて、テレビアニメ自体のあり方が変わっているかもしれないけど。

藤谷:これまでも何千万部と売れたヤンキー漫画は多々あれど、たとえば、Tik Tokでマイキーのモノマネ動画が流行る一方で、アニメイトで女性向けアイテム、例えばキャラのアクリルキーホルダーが売られているだとか、サンリオキャラとコラボしたりだとか、男女問わず受け入れられているケースはあまり見受けられなかったと思います。この令和にナンシー関の指摘した「日本の9割はヤンキーとファンシー」がまだ生きていたと考えるべきか……。

森田:そう、インターネット上での消費を含め、受容のされ方が今までとは違うのかなって。ヤンキー漫画の実写化の流れでいえば、2000年代の『クローズZERO』や『ROOKIES』のように、イケメンパラダイスものとヤンキーもののミックスのような作りもある。結果的にそれは女性のファンをも取り込み、成功したわけですが。ただ、『東京卍リベンジャーズ』の場合、原作のファン、アニメのファン、実写のファンと、支持の層はもしかしたらちょっとずつ違っているのかもしれない。だからこそ、これだけの大きな作品になっているのかもしれないと思っています。

藤谷:アニメ版に関しては『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』に近いポジション、いわゆる「覇権アニメ」ですよね。

森田:『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』とも共通するところですが、チーム分けされた組織での立ち位置がキャラクターの人気に還元されるというのは、今や少年漫画の主流的なパターンでもあります。『東京卍リベンジャーズ』でいうと「○○番隊」ですね。「○○番隊」というと、やはり『BLEACH』が思い出されてしまうのですが、個々の部隊にカラーがあったり序列があったりすることで、主人公以外の登場人物にもドラマが生まれ、重要な役割が与えられていきます。「ジャンプ」のものに限らず、『東京卍リベンジャーズ』と同じ「マガジン」でも『炎炎ノ消防隊』などに見られる傾向ではないでしょうか。それをヤンキー漫画における暴走族同士の抗争、暴走族内部の衝突とにうまく転用しているあたりも魅力の一つになっている気がします。

藤谷:もちろん、『家庭教師ヒットマンREBORN!』や『ジョジョの奇妙な冒険』の5部のようなマフィア・ギャングものは人気が高かったですし、BLの世界ではヤクザやヤンキーものは定番だったりはしますが。この数年の傾向でいうと漫画原作ではありませんが、『HiGH&LOW』シリーズが一部のオタク層から熱狂的な支持を受けたり、『ヒプノシスマイク』が女性オタクの間で流行したりと、「不良要素のあるチーム抗争劇」がヒットしていたという下地があったからでは……? など、さまざまな推測もできますが、この人気は異例といっていいと思います。

 くわえて元々、和久井健は『新宿スワン』の頃から、抗争の中での男性キャラ同士の衝突や絆……、つまり近年のオタク女性がよく使うネットスラング「クソデカ感情」の描写が上手でした。チーム抗争でストーリーを引っ張っていくのが上手い作家だったと思います。個人的には『新宿スワン』の主人公・白鳥龍彦の「女の子を救う」というマインドは少年誌のキャラクターに近いと感じていたので、掲載誌を少年誌「週刊少年マガジン」に移したのは正解だったのでは。

森田:けれど、「週刊少年マガジン」での一作目、『デザートイーグル』は短期連載で終わっていますよね。

藤谷:絵柄の変化も大きいのだろうとは思います。その他にも、タイムリープという設定も異色といえますが、「いかに大人になるか」ということは、近年のヤンキー漫画で繰り返し語られてきたものですよね。

森田:タイムリープを取り入れたとはいえ、ヤンキー漫画の正統なテーマを扱っていますよね。これは奇跡的な偶然ですが、作品が平成と令和をまたいだことで、彼らが皆きちんと大人にならないと、マイキーの闇堕ちを阻止しないと、平成が終わらないんですよ。

藤谷:その見方、面白いですね。

森田:平成のヤンキー漫画の総決算と呼べるものになっていると思います。僕はヤンキー漫画って、世間的には昭和のものと思われているけれど、実際は平成のカルチャーだと思っていて。

藤谷:例えば『今日から俺は!!』の実写版は「昭和のツッパリ」を全面に出していますが、連載期間自体はほぼ平成ですからね。

森田:そう、平成の30年間で確立されたカルチャーなんですよ。だからこそ、『東京卍リベンジャーズ』が最後の花火になるのか、あるいは令和以降につながるブリッジになるのか、そこに関心があります。

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