芥川賞受賞作『ブラックボックス』は日本の暗部を映し出すーースカッとしない勧善懲悪劇

芥川賞『ブラックボックス』書評

 同棲中の恋人・円佳が妊娠すると、サクマは否応なしにちゃんとする必要に迫られる。安定した職を見つけようとハローワークを訪れるが、何のスキルもないアラサー男性には下請けの下請けが行うブラックな現場仕事しか選択肢がない。退職した仲間の苦境を訳知り顔で語る上司に苦言を呈して仕事を干されて以降、メッセンジャーの稼ぎは減っている。なのに、新たに始めたウーバーイーツはまめにシフトを入れず、家でゲーム機のコントローラーに手を伸ばしてしまう。ちゃんとする糸口を掴めず怠惰な日々を積み重ねるようになったサクマは、ある出来事をきっかけに再び悪癖が頭をもたげる。

 組織に溶け込めない人間や、弱者に厳しい今の社会構造を詳細に描き出す本書。誰がこんな世界を生み出し、誰がよしとしているのか。〈ブラックボックスだ。昼間走る街並みやそこかしこにあるであろうオフィスや倉庫、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようでいて見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない〉というサクマの独白が頭から離れない。

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