『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』マキヒロチに聞く、街を描くということ 「その土地を見てから住人を決める」
まだまだ、紹介したい街はたくさんある
――『いつかティファニーで朝食を』もそうでしたが、暮らしのなかで何をいちばん大事にしたいのか、改めて見つめ直すことのできる作品だなと思います。他人との比較や、イメージで自分には必要だと思い込んでいるもの、人には理解されづらくても絶対に譲りたくないもの。自分なりにひとつずつ取捨選択していくのが、生きるということなんだな、と。マキ:人の数だけ、暮らしがありますからね。基本的には「この街、いいよ!」と読者に推すというよりも、「吉祥寺以外にもこんなにおもしろい街があるよ。興味があるなら行ってみたらどうでしょう?」と提案するようなスタンスで続けていきたいと思っています。『いつかティファニーで朝食を』のときは「けっきょく結婚するのかよ」という意見をいただいたりもしましたが、今作の双子は基本的にブレずに自分らしく生きていける人たちとして描いていけたらなと。もちろん、小さな悩みはいろいろありますけどね。別に独身のまま、姉妹二人暮らしでもいいじゃん、って。『それでも~』では、富子にずっと片思いしているタケシがやや動き出してはいますけど。
――『いつかティファニーで朝食を』も、最終的に、自分が生きていくのに必要な相手として結婚を選んだ、という感じで描かれていたので、とても好きでした。富子と都子はいつまでも二人暮らししていてほしい気持ちがありますが(笑)。
マキ:まあ、このシリーズに関しては、着地点を最初から決めているわけではなく、その時々で「これがいいんじゃないか」と思ったことを大事に描いたほうがいいなと思っているので、なりゆきに任せていこうと思っています。まだまだ、紹介したい街はたくさんあるので。
――ちなみに、富子と都子が二人でソファにくつろぎ映画を観ているシーンが好きなのですが、最近観た映画で、なにかおすすめはありますか?
マキ:『17歳の瞳に映る世界』ですね。17歳の主人公が妊娠していることがわかって、親には内緒で中絶しようとするんですけど、彼女が住んでいるペンシルベニア州では、親の同意なく未成年者の中絶手術ができないんですよ。友達もいなくて、一人でどうにかしようとする主人公に、唯一の親友である従妹が付き添って、ニューヨークまで手術しにいこうとする物語。今年いちばん、よかったです。Amazon primeとかでも観られるので、よかったらぜひ。