夢に挫折した女性たちがスケートボードで取り戻したい景色とは? 山崎まどかが漫画『スケッチー』をレビュー

山崎まどか、漫画『スケッチー』レビュー

 スケートボードに乗れるように何度も挑戦し、上手な女の子に私はいつも嫉妬していたの。なにも恐れない精神とバランス感覚、そして12歳であること。これが上手にスケートボードに乗る条件だって学んだ

 女性たちとスケートボードの出合いを描いた『スケッチー』の1巻を読んで、すぐに思い出したのがアレクサ・チャンのエッセイ集『IT』のこのフレーズだった。

 コミックの冒頭、町の郊外でスケートボードをプッシュし、ウォールライドやオーリーを決めて疾走していく少女は、何にも縛られない“12歳であること”のスピリットそのもの。しかし『スケッチー』で描かれているのは魅力的なスケートボードのカルチャーからも、“12歳であること”からも一見すると遠い女性たちだ。

 主人公の川住憧子はレンタルショップの社員。31歳という設定だが、女子校時代の友人たちが体現する華やかさや、成熟、社会的な成功とはかけ離れている。自分よりも若い子たちが働く職場でも、学生時代の友人との女子会でも、どこか居心地が悪そうだ。脚本家志望の恋人がいるが、二人はどこか噛み合っていない。この彼氏の倉持怜の描写にはリアリティがある。『天才作家の妻』や『スパイダーマン:スパイダーバース』といった作品について蕩々と批評する様を見れば、彼がクリエイターの側の人間になれないことは明らかだ。自分から何か行動する前に、様々な理由を言い訳にしてストップをかけてしまうタイプ。憧子にも恐らく似たようなところがあり、それ故に将来性のない彼との付き合いをずるずる続けているのだろう。

 そんな彼女の前に鮮やかなオーリーを決めて、ガールズ・スケーターが降り立つ。

 自由が、スケートボードに乗った少女の形をして現れた。その時に憧子の胸に去来した思い出の風景はまだ物語の中では謎のままだが、彼女がその頃に風を切るような感覚を抱いていたのは分かる。それは恐らく、ひとりの少女によって彼女にもたらされたものだった。

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