箱根駅伝まで1週間! 額賀澪から三浦しをんまで、読めば感動が増幅する“駅伝小説”を一挙紹介

 第98回箱根駅伝が開催される2022年1月2日・3日まで、1週間を切った。東京の大手町から箱根へと往き、大手町へと戻ってくる217.1㎞の距離を、10人で走りきる大学生ランナーたちの戦いが繰り広げられる。過去の記録を塗り替える力走をする選手もいれば、ケガや体調不良で棄権をする選手もいて、感動や感涙をもたらしてくれるスポーツ界の一大イベント。そんな箱根駅伝の持つドラマ性を、読むことで感じさせてくれる小説も数多く刊行されている。

 出場できるのは20校。走ることができる選手は、出場を逃した大学から選ばれる関東学生連合チームの10人を入れ210人しかいない箱根駅伝のスタート地点に立つために、選手たちはどのような毎日を送っているのか。そして、中学時代や高校時代をどのような気持ちで走り続けて、箱根駅伝という晴れ舞台を目指しているのだろう。

 額賀澪による『タスキメシ』と『タスキメシ―箱根―』のシリーズは、そんな選手たちの心に触れさせてくれる小説だ。まずは『タスキメシ』。眞家春馬という高校生ランナーを中心に、ライバルとなる高校生たちや、兄で同じランナーだった眞家早馬との関係などが描かれる。

 そこでは、故障をしてランナーとしての道を断念した早馬に対して抱く春馬の複雑な思いが綴られる。早馬自身は管理栄養士を目指していて、故障を機に走るのを止め、弟のために体に良い料理を作ってみせる。『タスキメシ』というタイトルも、そんな料理がいろいろと出てくるところから付けられている。

 春馬にとって早馬は自分よりも早く走る才能を持ったランナーで、大学に行っても陸上を続けて欲しかった。早馬の走りに刺激を受けた同世代のランナーたちにも同じ気持ちがあって、早馬を一線に復帰させようとする動きが繰り広げられる。走り続けることが自分の人生のすべてになっている選手にとって、走らなくなるということはどのような気持ちをもたらすのか? 走るということの意味について考えさせてくれる作品だ。

 結果、早馬は進学した大学で陸上部に復帰したのか。箱根駅伝を走ったのか。それは『タスキメシ』を読んで確認してもらうとして、ひとつ言えることは、箱根駅伝という舞台に挑んだという思いは人生に少なくない影響を与えるものだということだ。大学を卒業して管理栄養士の資格を取り、病院に就職した早馬だったが、『タスキメシ―箱根―』で仕事を辞めて、スポーツ栄養学を学ぶために紫峰大学大学院に進学する。同時に、紫峰大学の駅伝部で栄養管理とアシスタントコーチを担当して、箱根駅伝出場を目指すことになる。

 さっそく、早馬が学んできたスポーツに最適な栄養管理が行われた料理が繰り出され、箱根駅伝なんて遠い夢だと思っていた選手たちを変えていく。出場を決める予選会の前に、豚肉のミンチを使ったミートパスタを出し、ビタミンB1やエネルギーになる炭水化物を摂らせるとか、走った後に、ハムとチーズとほうれん草が入ったおにぎりを食べさせて、エネルギーを補給し壊れた組織の再生を急がせるといった、スポーツにまつわる食事について学べる。

 一方で、ケガをして焦る選手に対して自身の経験を話し導く"失格者"ならではのアドバイスから、道はひとつではないと諭される。実際に箱根を走っている選手たちが何を食べているのか、走り終えた選手たちは何を思っているのかを想像してみたくなる小説だ。

 食事のメニューから練習の指導まで面倒を見る早馬の姿に重なるのが、三浦しをん『風が強く吹いている』に登場する寛政大学陸上競技部のハイジというキャラクター。なんとかして箱根駅伝に出たいと、万引きをして逃げていた元高校陸上界期待の星を引っ張り込み、漫画好きや愛煙家やアフリカ人だがスポーツとは無縁の国費留学生やクイズ王といった、とても走れそうにもない面々を合宿所に住まわせ出場に向けて動き始める。

 紫峰大学ですら予選会で14位という実績を持っていたのに対し、走った経験すらない選手たちが挑んで箱根駅伝の出場権を勝ち取ることは、奇跡ですら起こりそうもない。それでも、ハイジの熱とメンバーの頑張りが壁を乗り越えさせ、箱根駅伝の舞台で偉業を成し遂げさせる展開に、快哉を叫びたくなる。強烈なキャラクター性で無理を無理と感じさせないところが、さすがは三浦しをんならではの筆力だ。

 大学名が入ったたすきを着け、大学の看板を背負って走る箱根駅伝の選手達に混じって、所属校とは無関係に走るチームが関東学生連合チーム。出場できなかった大学からトップクラスの選手を選んで組まれたチームだが、参加できるのは本選出場経験のない選手に限られているため、アクシデントで本選出場を逃したチームのエースが集まり、リベンジを果たすといったドラマは生まれにくい。

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