新海誠監督を刺激したアニメ映画『メイクアガール』 ノベライズやスピンオフで明かされる、ヤバい主人公のヒミツ

新海誠を刺激した映画『メイクアガール』

 数々の映像作品を発表してきた安田現象監督が手がけて1月31日から公開中の『メイクアガール』は、主人公で天才科学少年の言動がヤバい上に、クライマックスからの展開もヤバく、観た人たちを感嘆と恐慌の入り混じった心情に浸らせている。謎もいろいろと浮かぶが、2月7日に池田明季哉の執筆で登場したノベライズ『メイクアガール』(原作/安田現象・Xenotoon、電撃文庫)と『メイクアガール episode 0』(原作/安田現象・Xenotoon、電撃文庫)を読むことで、疑問への答えが得られ新たな感慨に浸ることができる。

見た人が"ヤバい"と感じる映画『メイクアガール』

 高校生の水溜明は天才的な研究者で、同じように天才研究者として有名だった母親の水溜稲葉が亡くなった後、ラボを引き継ぎ稲葉が開発した人間の仕事をサポートしてくれるロボット「ソルト」を製品にして世の中に送り出した。次は「ソルト」をさらに高性能にしようと取り組み始めたが、これがなかなか上手くいかない。なぜか途中で自分の首を引っこ抜いて自壊してしまうのだ。

 不老不死のクラゲを生み出そうとしても死んでしまう。変形ロボットを作ろうとしても途中で壊れてしまう。カップラーメンを自動で作る機械も調理に5分もかかってしまう。このままではいけないと考えていたところに、高校のクラスメイトの大林邦人から最近彼女が出来て仕事がはかどるようになったと聞かされ、パワーアップしたいなら明も彼女を作ればいいと言われてひらめいた。

 ここで普通の人間だったら、ナンパか告白でもして彼女になってくれる人を探そうとする。明は違った。文字通りに彼女を“作って”しまったのだ。少し経って明や邦人がいるクラスに転入してきて水溜0号と名乗った少女は、見た目は普通の人間にしか見えなかったが、実は明が研究室で作り出した人造人間だった。

 0号は人間らしさを学び、明に好かれようとして邦人がアルバイトをしているファミレスで働いて調理を覚えたり、明を外に誘い出してデートのようなことをしようとしたりする。そんな0号を明も最初のうちは受け入れていたが、研究の方は依然として失敗続き。邦人から言われたとおりに彼女を作ったものの、まったくパワーアップできないことから明は0号が失敗作だったのではと思うようになる。

 人間の良識からすればどうにもヒドい思考回路。邦人が言う彼女ができればパワーアップできるという意味は、好きな人の前でカッコ良いところを見せたいという気持ちが強くなることの表れだ。ところが、明にはは0号を好きになろうとか、頑張っていいところを見せようといった感情がまるでない。そんな明の思考回路をヤバいと感じてしまう人も少なからずいて、『メイクアガール』という作品への評価を迷わせている。

ノベライズで補完されるヒロインの想い

『メイクアガール』(電撃文庫)

 一方で、明に好きになってもらいたいと頑張る0号の思考回路は明快だ。池田明季哉によるノベライズ『メイクアガール』は、0号の心情が1人称で綴られているところがあって、恋をする少女が相手に受け入れてもらない苦しみがしっかりと描かれている。

 そもそも0号は、明を好きになるように生み出された。その気持ちを貫くために、親とも言える明に逆らうような態度を見せるあたりは、人工知的な知性が人間らしさを獲得し、大きく進化する様を見せるSFとしての面白さを感じさせてくれる。

 映画のクライマックスで描かれる、明と0号との間で繰り広げられる凄絶な行為についても、0号の側から描かれていることで、ひとりの人間として存在していることを、大好きな明に認めてもらいたいといった情念が芽生え、人造人間として与えられた命令を自ら乗り越えさせたことを理解できる。

 神に逆らい知性を持ったがゆえに楽園を追われたという人類と同じように、AIの発展の先に新たな人類が生まれてくるのだとしたら、どのような反攻なり葛藤があるのかを想像させてくれるSF作品だ。

 そこまでの展開は映画でも観られるが、ここで浮かんでくる疑問がある。明という存在がよく言えば朴念仁で、悪く言えば非人間的なのはなぜなのか? その理由がノベライズのエピローグでしっかりと描かれている。予想していた人には納得を与え、そうでない人には驚きを与えるだろう。

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