キャラクター造形&設定の妙ーー花盛りを迎えた"ラノベミステリ”の新潮流を考察
『黒牢城』が第166回直木賞候補となった米澤穂信も、『私の男』で第138回直木賞を受賞した桜庭一樹も、ライトノベルの新人賞を取って活躍を始めたミステリー系の作家として有名だ。今もラノベやキャラクター小説のカテゴリーでは、本格的な推理やサスペンスを楽しめるミステリーが書かれ、送り出されている。
『三体』の劉慈欣が華文(中華系)SFのトップランナーなら、華文ミステリーのファンを日本で切り開いているのが陸秋槎。2018年発表の『元年春之祭』が「このミステリーがすごい!2019」の海外編第3位となるなど、年間ミステリランキングのことごとくに名を連ねたと思ったら、2019年に刊行された『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』に初のSF小説「色のない緑」を寄せ、百合SFでも名をあげた。
最新刊の『盟約の少女騎士』(星海社FICTIONS)に至っては、鈴観が描く美少女のイラストレーションに彩られたライトノベル的な体裁で刊行された。その中身も、百合にしてミステリーにしてファンタジー、あるいはSFかもしれない深遠さを持って読み手を引きずり込もうとしている。
ゼーラント王国とエルドゥリア王国が存在する大陸にあって、ゼーラント王国のアーシュラ王女は少女だけが所属する“湖畔の騎士団”を組織していた。ゼーラント王国の治安を守るために働くことが任務だが、王位争いに巻き込まれる可能性が高いアーシュラ王女を守るということも、少女騎士たちの重要な役目となっていた。
高貴な王女に忠誠を誓う少女たちが大勢集まり、先輩後輩といった関係で共に暮らし、学び、競い合う雰囲気から漂う華やかで麗しく甘やかな空気が、宝塚的だったり女学園ものだったりといった物語のファンを誘う。そして読み始めると、厳しい鍛錬をくぐり抜けて騎士として叙任された少女たちの、清廉な心と高い戦闘力を合わせ持った姿に惹かれて応援したい気にさせられる。
騎士としての心得だとか、主君を敬い神を信じる意味だとかに触れ、中世に似た世界ならではの人々の考え方や暮らし方を目の当たりにしているような気分を感じさせる物語。それが、騎士団が遭遇したある事件をきっかけに、騎士団による探求のストーリーへと移っていく。金持ちを襲って財産を横取りした犯罪者が、摘発されても逃げたり命乞いをしたりせず、その場で自殺してしまう。そんな事態が相次いだ果て、“七短剣の聖女”なる存在への強い信仰、そして教義への信頼が浮かび上がってくる。
それが何かは最後まで読んで確かめてもらうとして、少女の騎士たちがわちゃわちゃとする様を楽しんでいたら、世界の成り立ちそのものに大きな疑問を突きつけられ、驚かされるとだけは言っておこう。もしかしたらこの世界も……。そう思わせつつ真相までは明かされない物語の続きがあれば、ぜひとも読んでみたい。騎士のサラやアーシュラ王女といった美少女たちの活躍も、王位をめぐる謀略もまだ始まったばかりなのだから。