『かげきしょうじょ!!』沢田千夏と千秋は共依存からどう抜け出した? 異なる個性が花開くまで

『かげきしょうじょ!!』沢田千夏と千秋の関係性

※本稿は漫画『かげきしょうじょ!!』、アニメ『かげきしょうじょ!!』のストーリーに触れております。未読・未視聴の方はお気をつけください。

 白泉社の「メロディ」で連載中の斉木久美子『かげきしょうじょ!!』は、女性のみで構成される紅華歌劇団の音楽学校を舞台にした物語だ。100期生として入学した7名の少女を中心に、未来のスターを目指してひたむきに奮闘する青春の日々を描く。

 長身でスター性を秘めた渡辺さらさや、元国民的人気アイドルという経歴をもつ奈良田愛らが揃う100期生の中には、同じ顔をした少女が二人いる。沢田千夏と沢田千秋――という名前からも明らかなように、二人は双子なのだった。テレビアニメでは姉の千夏を松田利冴、妹の千秋を松田颯水と、双子の声優が演じたことも話題を呼んだ。今回はそんな沢田姉妹を取り上げて見ていきたい。

衝突を通じた共依存脱出

 物語の序盤では沢田姉妹の存在感はやや薄く、登場する場面でもセット扱いだった。ストレートのロングヘアが千夏で、髪を結んでハーフツインテールにしているのが千秋。髪型以外はそっくりに見える双子だが、小さなエピソードを通じて、それぞれの性格の違いが描写されている。

 たとえば、授業の中で「ロミオとジュリエット」を演じる場面。千夏はじゃんけんに勝ち、好きな役を選べる立場になった。にもかかわらず、千夏は元国民的人気アイドル・奈良田愛に気後れをしてしまい、本当にやりたいジュリエットではなく乳母役を選んでしまう。だが別グループにいる千秋は、ためらいなくジュリエット役に名乗りを上げていた。

 大事な場面で一歩引いてしまう性格の千夏。彼女はかつて、千秋のために紅華への入学を辞退した過去をもつ。

 千夏と千秋の仲良し姉妹は、紅華歌劇団好きの母のもと、幼い頃から歌劇に親しんで育った。やがて二人は紅華を目指し、一緒に入学することを誓い合う。だが最初の受験では、姉の千夏だけが合格通知を受け取った。

 不合格になった千秋は泣き崩れ、部屋に閉じこもり続けた。「どうして千夏だけが受かるの? 双子なのに何が違うの?」と泣く千秋を見て、千夏は「頑張って二人一緒に入学しよう」と、自らのチャンスを手放して再度受験し直す。そして翌年、二人は見事に合格し、姉妹揃って100期生として音楽学校に入学したのであった。

 入学後も寮では同室で、お互い何を考えているのか、言わなくても分かり合えている。そんな仲良し姉妹の生まれて初めてのケンカ、衝突を通じた共依存脱出が、コミックス3巻の沢田姉妹編で描かれた。テレビアニメでは、第9幕「ふたりのジュリエット」として放映されたエピソードである。

 100期生たちは、10年に一度開催される紅華大運動会の準備のため、専科(歌劇団に所属する芸に長けたベテランたちを指す)と一緒に準備を進めていた。専科に所属する野原ミレイは、かつて『ロミオとジュリエット』でジュリエットを演じた、沢田姉妹憧れの娘役である。稽古の最中、千秋はミレイと話す機会に恵まれ、彼女のジュリエットが大好きだったと打ち明けた。 

 その姿を見た千夏の胸に、小さな嫉妬心が芽生える。その後、双子だと知らないミレイは、千秋と間違えて千夏に用事を頼もうとした。だが負の感情が生まれていた千夏は、自分は千秋ではないと言えずに彼女を無視してしまい、この態度がトラブルを引き起こすのだった。

 『かげきしょうじょ!!』の魅力のひとつは、丁寧な心情描写を通じたキャラクターの掘り下げにある。沢田姉妹編では、野原ミレイをきっかけに、千夏の中に負の感情があぶり出されていった。双子で何でも一緒だと思われていても、いつも微妙に自分が損をしているような気がする。これまで胸の中に封じ込められていた千夏の思いが爆発し、一方の千秋は「家出」と称して、さらさの部屋に押しかけた。

 ケンカは他の100期生を巻き込んだ騒動へと広がっていくが、二人が和解するきっかけとなったのも、やはり双子の存在だった。沢田姉妹の紅華体験の原点にあるのは、とあるレビューで観た、舞台をキュートに彩る双子のうさぎ。舞台の主役ではないが、踊りがうまくてかわいい双子のうさぎは、千夏と千秋にとって今も変わらぬ憧れの役なのだった。

 入学の顛末で千秋は姉に対して罪悪感を抱き続け、翌年の合格発表では自分の番号よりも先に千夏を確認していた。千夏も自分の中の嫉妬心を受け止め、ミレイに謝罪する。

 嫉妬という辛い経験を乗り越えた沢田姉妹は、すべてが同じではいられないことを、二人の道が思ったよりも早く分かれてしまったことを自覚した。それでも双子という絆は揺らがず、いつかきっとまた道は交差するだろう。アニメ第9幕のエンディングに流れた「薔薇と私」は、沢田姉妹のデュエットバージョン。美しいハーモニーで歌われる双子の葛藤が印象的だった。

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