『かげきしょうじょ!!』なぜ山田彩子を応援したくなるのか? 稀代の歌姫がコンプレックスを乗り越え開花するまで

『かげきしょうじょ!!』山田彩子の成長

※本稿は漫画『かげきしょうじょ!!』、アニメ『かげきしょうじょ!!』のストーリーに触れております。未読・未視聴の方はお気をつけください。

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 2021年の夏アニメとして放映され、好評を博した斉木久美子の漫画『かげきしょうじょ!!』。アニメで声がついたことで、「稀代の歌姫」という魅力がより際立ち、一層思い入れが深まったキャラクターが山田彩子だった。

「何も無い子が紅華に入れっこないのよ?」

 女性だけで構成される紅華歌劇団の音楽学校を舞台に、未来のスターを目指す少女たちを描く『かげきしょうじょ!!』は、100期生として入学した7名を中心とした青春群像劇として展開する。

 100期生は、身長を含めて規格外の大物(渡辺さらさ)、元国民的人気アイドル(奈良田愛)、成績トップの委員長(杉本紗和)、3代続けて紅華のサラブレッド(星野薫)、双子で入学(沢田千夏・千秋)と、個性派揃いだ。そんなメンバーの中で、本記事で取り上げる山田彩子は、おとなしくて気弱な性格の「普通」な女の子として物語に登場する。

 実家がパン屋を営む彩子は、8歳の時に紅華の舞台をみてその美しさに魅了され、歌劇団に入ることを夢見るようになった。のちに音楽学校の厳しい入試を突破し、小さい頃からの夢だった紅華歌劇団の世界に足を踏み入れる。だが入学後の彼女は得意の歌でも実力を発揮できず、おまけにダイエットをしようと過食と嘔吐を繰り返し、心身のバランスを崩していった。

 彩子が不調に陥るきっかけを作ったのは、タップダンス講師・橘直美の言葉だった。授業中に彼女の体型変化に気づいた橘は、「ここで生き残りたきゃ痩せなさい!」と叱責する。紅華という夢の世界の舞台に立つためには、ウエイトコントロールも必須だった。言葉は厳しいが、事実としてビジュアルも成功のための大きな要素となる紅華の世界において、橘の指摘そのものは、単純に間違っているとは言い難い。 

 だが結果的に繊細な彩子は追い詰められ、上述のように、過食をしてはトイレで嘔吐を繰り返すようになってしまう。体重こそ減ったものの、体はボロボロになり、成績も学年最下位まで低下。彩子はますます自信を失っていった。

 授業についていけないし、皆みたいに綺麗じゃない。「もう戻ろう 不相応な夢をみてしまっただけ――でも 少しだけでも夢の世界へ近づけて幸せだった」。思いつめた彼女は学校を辞めて、元いた世界に戻ろうとする。

 そんな彩子を救ったのが、声楽講師の小野寺保だった。彼は入試の時から歌の上手い彩子に目をかけ、入学後は不調に陥る彼女を案じ続けていた。小野寺は「何も無い子が紅華に入れっこないのよ?」と彩子を思いとどまらせ、さらに入試で歌声を聞いて、この子は歴代屈指のエトワール(ショーのフィナーレでソロを歌う役割)になると確信したと、彼女に歌うことを取り戻させる。彩子は学校に戻り、授業で見事な歌声を披露。その実力に、他の生徒たちも驚くのだった。  

 それまでは平凡に見えた少女が、歌という抜きん出た特技を披露し、特別な輝きをまとう。ここは漫画でも感動的なシーンだったが、アニメでは実際に歌声が流れることで、歌姫という設定により一層説得力が加わった。山田彩子を演じるのは、声優で歌手の佐々木李子。幼少期からミュージカルで活躍し、歌唱力に定評がある佐々木による劇中歌「My Sunset」は、温和な彩子のようにどこまでもあたたかく、そして圧倒的だった。

 こうして最初の壁を乗り越えた彩子だが、性格はそう簡単には変わらず、以後も自信のなさを引きずっていく。

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