合わせて60万部超! 『変な家』『私が見た未来』担当編集者が明かす、出版不況下でベストセラー連発のワケ

『変な家』担当編集者インタビュー

YouTubeで気鋭の著者を探していく


ーー飛鳥新社はベストセラーをつくる環境が整っていると感じるそうですね。

杉山:去年の4月に入社したんですが、これまでとは環境が全然違いますね。会社がベストセラーを出すことにとにかく価値を置いている。会社の規模は小さいけれど、年間ベストセラーに毎年何冊かランクインさせて、大手出版社を悔しがらせることに生きがいを見出しているというか(笑)。

ーーどのように違うのでしょうか?

杉山:何より、会社がベストセラー慣れしていますね。最初に火がつくところまでは編集者の仕事だと思うんですけど、火がついてからの薪のくべ方や燃やし方がめちゃくちゃ慣れている。具体的なノウハウは秘密ですけれど、たとえば新聞広告は飛鳥新社の御家芸みたいなところがありますね。増刷のタイミングも過去の経験則があるので、すごく上手なんです。ありがたいですね。

 社内では「10万部か、それ以外か」という価値観があります。だから10万部を出すと給料やボーナスとは別にインセンティブが出るし、10万部突破記念に、著者と編集者に革張り装丁の本をプレゼントしてくれます。

 前の会社では「本は数字じゃないんだ」という価値観だったんですけど、私自身、数年前に子どもが生まれてから「いやいや、本は売ってナンボだろ」と思うようになりました。そうじゃなかったら生きていけないし、何より面白くないよなと。

ーーYouTubeを見て、企画を考えることが多いのでしょうか?

杉山:僕が入社したのは、ちょうど初めての緊急事態宣言が始まった日でした。誰か新しい人を開拓するような状況ではない。人に会えないですし、もともと人脈もなかった。

 うちの会社は編集者がすごく優遇される一方、結果も求められる。そういう中で、どうやったら生き残れるのかを考えたら、僕としてはYouTubeから著者を開拓するのが一番やりやすかった。


ーー面白い動画はたくさんあると思いますが、その中で特に注目しているのはどんなところでしょう?

杉山:「これを本にしたらどうかな。ちょっと一晩考えてみようかな」と思うネタは、その時点でたぶん弱いんですよね。ちょっとはヒットするかもしれないけど、バカ売れはしない。見た瞬間に「今すぐに声をかけなかったら絶対後悔する! 自分が生き残れるかどうかは、これに掛かっている!」と瞬時に感じるネタ。そんなことは滅多に起こらないんですが、自分の中では、その衝動が何より大事ですね。

 もう少し具体的に言うと、「映像よりも本にしたほうが合うもの」「映像の先の話が気になるもの」「書店のどの棚に並べたらいいか瞬時に思い浮かぶもの」という感じです。

誰もが、ここまで売れると思っていなかった

ーー最近、杉山さんが手掛けられた『私が見た未来 完全版』、この本もきっかけはYouTubeだったそうですね。

杉山:何人かの都市伝説系YouTuberが取り上げていて、すごく話題になっていました。僕が知ったのはだいぶ遅くて、今年のGWごろですね。『私が見た未来』は今から22年も前、1999年に発売されたコミックスですが、表紙に「大災害は2011年3月」と書いてあるインパクトが凄かった。絶版になっていて、中古市場で何十万円もの値段がついていて、手に入らない状況でした。だから解説も加えて復刻できたら、話題になるだろうと思って。

ーー予約開始してから、アマゾンでずっと1位になっていました。

杉山:書籍ランキングで総合1位が何十日間も続いてしまって。ここまで話題になるとは思っていなかったので、嬉しいというよりも、なんだか怖くなりました。出版界の誰もが、ここまで売れるとは思っていなかったと思います。

ーー初版15万部スタートで、発売から1ヶ月半で40万部突破という数字は、書籍の世界ではかなり異例ですよね。

杉山:そうですね。発売直後から都市伝説系YouTuberさんらがこぞって考察動画を作ってくれて、盛り上がりましたね。

 ただ、驚いたのは、YouTubeの視聴者とは関係なく、新聞広告が効いたのか60代、70代、80代の購入者もかなり多くて、その年代からの読者ハガキが連日たくさん届いています。

 やはり東日本大震災のトラウマと、「本当の大災難は2025年7月にやってくる」というたつき先生の新たなメッセージが、刺さっているんだと思います。

 この本がきっかけとなり、災害がいつ何時起ころうとも、心構えと準備・対策のきっかけになってくれたら嬉しいですね。


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