「日本から世界を席巻するウェブトゥーンを」 LINEマンガ担当者が語る、新たなマンガ文化創出への挑戦

 フルカラー&タテよみという新たなマンガ「webtoon」(ウェブトゥーン)作品が人気を拡大している。そのなかで多くのヒット作を生み出し、シーンを牽引しているのが、電子コミックサービス「LINEマンガ」だ。

 LINEマンガは新たな才能の発掘とwebtoonの周知を目指し、大賞賞金1000万円という規模で「LINEマンガ大賞」を展開。現在は第3回の選考中で、その他にもインディーズ作品の積極的なサポートを行い、期間限定の「トライアル連載」から本連載へのステップアップを目指すという取り組みも話題になっている。

小室稔樹氏

 LINE Digital Frontier株式会社(LINEマンガ)のインディーズ企画運用部で部長(取材時)の小室稔樹氏は、webtoonというフォーマットが漫画家からも大きな注目を集めているなかで、決して参入障壁は高くなく、収益を上げるモデルも確立していることが必ずしも周知されていないことを課題に挙げる。

 webtoonの魅力はどんなところにあり、どんな可能性を秘めているのか。コマ割りのページマンガという文化を深くリスペクトしながら、新たなマンガ文化を広げることに力を注ぐ小室氏に、じっくり聞いた。(編集部)

従来のページマンガとウェブトゥーンは対立するものではない

――「第3回LINEマンガ大賞」でどんな作品が賞を獲得するのか、いまから楽しみですが、今回は「タテよみ」(webtoon)作品に対し、各賞の賞金に100万円が上乗せされ、重視する作品の方向性が明確になった印象です。

小室稔樹(以下、小室):そうですね。第1回~2回は、出版社様が開かれているマンガ賞と比較的近く、モノクロ&コマ割りのページマンガで質の高い作品を見出そう、という狙いがありました。しかし今回は、昨年に米WEBTOON Entertainment Inc.のグループ会社になったこともあり、海外展開に強いタテよみ作品にフォーカスして、グローバルに踏み切ろうと考えたんです。

――スマートフォンでマンガを読むというスタイルが一般的なものになり、日本でも「タテよみ」の作品に親しむ読者が増えていますね。

小室:漫画家さんのなかでも、縦スクロールのwebtoonという形式は広く認知されており、「世界中に作品を届ける上でも、タテよみ作品を描いてみたい」という声は、本当によく聞こえてくるようになりました。ただ、「実際にどこで連載ができるのか」「そのままの形で単行本化が難しいなかで、原稿料はどういう計算になるのか」など、まだまだ周知されていない部分もあり、実際に取り組もうとしてもイメージが湧きづらいのが現状だと思います。

 今回、タテよみ作品に限って賞金の増額を決めたのは、世界に羽ばたく作品の募集を強化する意味もありましたが、より多くの方に関心を持っていただき、連載できる場所も、大きな市場もあるんだということを周知したい、という思いがありました。

――大賞賞金がそもそも1000万円で、加えて連載&グローバル配信を確約するということで、非常にインパクトがあったと思います。

小室:受賞作品の発表に際しても、webtoonにどんな魅力があるか、ということが伝わればうれしいですね。一方で、タテよみマンガが隆盛することで、伝統あるページマンガが廃れていく、ということは当然ながら全くないと考えています。音楽に似ていると思うのですが、ページマンガがクラシックだとすると、webtoonはポップスかなと。クラシック音楽は音数が多く、楽譜を見ればものすごく緻密に構成されていますが、ポップスは音数は少ないけれど人の心を捉えてやまず、どちらにも優劣はない。クラシックを勉強してきた人がポップスを演奏することができても、ポップスだけをやってきた人がいきなりクラシック音楽を演奏するのは難しい……という違いはあると思いますが、古くからのマンガ好きの方には、楽しめるジャンルが一つ増えたと捉えていただければと。


――「タテよみマンガはページマンガの簡易版」という認識の人もいるかもしれませんが、実際に読んでみると方法論が違い、別の楽しさがあることがわかります。特にフルカラーの作品には、マンガとアニメーションの中間的な魅力があるということかと。

小室:ページマンガには「場面」の美しさがあり、webtoonは流れていく「カメラワーク」、動画的な妙があると思います。やはりどちらにも魅力があり、作品の内容や作家さんの特性に応じて、適したフォーマットが選べることが重要で、webtoonが自然と表現の選択肢に入るようになってくれればいいなと。実際、いまは各出版社様でもwebtoon作品を作ろうという企画が増えていますし、今後、誰もが知る人気漫画家さんが参戦する可能性も十分にあると思います。LINEマンガのオリジナル編集部も、もともとは出版社での編集経験を持っているメンバーたちなので、伝統あるページマンガの編集で培われたものをwebtoonに活かしていき、ページマンガとはまた違った文脈から、日本ならではの作品が世界を席巻していく、という展開にも期待したいですね。

未開拓のフロンティアも広がるウェブトゥーン

――webtoonは「そのままの形で単行本化が難しい」というお話もありましたが、1話単位の購入やレンタルがマネタイズの基本になっていることが、1話あたりの高い熱量につながっているように思います。次の話も読みたくなる展開の作り方、一話読めばハマってしまう設定へのこだわりなど、ページマンガを志している人にとっても、勉強になる部分がありそうです。

小室:例えば、1話1話をあえてきれいに終わらせない、というのは、次の話への期待を高める手法として取り入れている作家さんが多いですね。また、「読者が残念な気持ちにならないところで終わらせる」というポリシーをお持ちの作家さんもいます。つまり、本当に辛い場面で終わらせると、「次を読みたい」と思えなくなる読者もいると。また倒置法的な手法というか、まず結果を見せて、そこに至るまでの過程を深掘りしていく、というスタイルも多く見られます。音楽に例えるなら、サブスクリプションでより多く聴いてもらうために、イントロなしでサビから入って、リスナーを一気に惹きつける、という考え方ですね。

――スマートフォンやPCなど、同じデバイスで多くのエンターテインメントが楽しめるという環境でもありますし、最初の接触からどれだけ人の心を掴めるか、ということが重要なんですね。

小室:そうですね。他のサービスのプッシュ通知を後回しにして、作品に没頭してもらえるかどうか。紙の漫画であれば、購入すればだいたい最後まで読みますし、両手が塞がりますから、自然と集中できますよね。その意味で、伏線を張り巡らせる複雑で緻密な物語構成が可能なのですが、webtoonはページの区切りがなく、パラパラめくって戻ることができないこともあって、伏線回収が早い、という特徴もあると思います。

――確かに、カタルシスが感じられるスパンが短く、それがクセになっていく感覚があります。さて、LINEマンガにおいては、インディーズ作品(https://manga.line.me/indies/)の月例賞があったり、期間限定のトライアル連載から本連載へのステップアップを目指す取り組みも話題になっています。小室さんは、どんな作品に期待していますか。

小室:「わかりやすさ」が非常に大切だと考えています。webtoonで人気の作品を見ると、第一話を読むだけで主人公が置かれている立場が明確にわかって、その後の展開に期待が高まるものが多いんです。「単純な作品であってはいけない」と考える方も少なくないと思うのですが、それこそ昔からから、物語のパターンは非常に限定的ですし、無理に捻ろうとせず、まずは王道にトライしていただくのがいいかなと思います。

――フォーマットとしてまだまだ開拓の余地があるだけに、ページマンガの王道、お約束のようなものをwebtoonに持ち込んでみる、という発想はあっても面白そうですね。例えば、「スポーツマンガの黄金パターンがまだ使われていない!」とか。

小室:面白いですね。スポーツでいうと、単純にタテでなくヨコの動きになる競技が多く、webtoonで表現するのは難易度が高い。ただ、スマートフォンをヨコに向けて、ヨコに流れるように読んでもらう、という仕掛けをしている作家さんもいますし、今後、新たな表現が生まれてくる可能性は広がっていると思います。むしろ「縦スクロールで表現しづらいジャンル」から逆算すると、ライバルが少なく、アイデア次第で目立つことができるかもしれませんね。例えば、ゴールが上にあるバスケットボールを、上から下に流れるタテよみでうまく表現できたら、きっと革新的な作品になると思います。

――なるほど。何らかの工夫をしないと、スクロールしたときにリングから目に入ってきたり、ジャンプした人が落下しているように見えたり、ということになってしまいますね。

小室:ただ、そういうチャレンジもいいなと思います。早くからwebtoonが主流になった韓国では、出てくる作品がかなり洗練されていて、例えば『全知的な読者の視点から』(https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0000822)のような極めてよくできた作品を読むと、ハードルが高く感じられるかもしれませんが、私としてはもっと荒削りでいいと考えていて。作家さんがいろんな試行錯誤やチャレンジをして、新しい作品をどんどん出していただけるような環境になればと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる