『かげきしょうじょ!!』なぜ山田彩子を応援したくなるのか? 稀代の歌姫がコンプレックスを乗り越え開花するまで
「気がつかない所でそっと 誰かが自分をみていてくれる」
100期生は、文化祭で「ロミオとジュエット」の寸劇を演じることになり、配役はオーディションで選考と決定する。初めて仲間がライバルになるという緊張感の中で、少女たちはそれぞれ演じたい役を選び、オーディションに臨んだ。彩子は、激戦が予想されるヒロインのジュリエット役にエントリーする。
オーディションのトップバッターを務めたのは、奈良田愛。彼女の素晴らしいジュリエットをみて、彩子は「私ジュリエットやっぱり向いてなかったよ… どうしよう」と胸中の不安を吐露する。それに対して星野薫は、「弱音はくのもいい加減にしてほしい」「誰もが思ってても 口に出さないだけなんだから!」と、厳しくもまっとうな指摘をしてみせた。
彩子はティボルト役でオーディションを受ける杉本紗和にも、失敗してテンポをおかしくしたらごめんと先回りをしてあやまり、「言わなくていいわよ そんなこと」と、正論をぶつけられる。最終的に彩子は紗和から励まされオーディションに挑むのだが、自信のなさから過剰に自己卑下を繰り返すその姿はもどかしい。
好きな人にも告白できず、そもそもこれまでに一度だって誰かに好きだと言われたことがない。そんな私に、一目惚れされ、初恋を成就させるジュリエットなんか演じられるだろうか。だが紗和の言葉をきっかけに、彩子は中学時代に女友だちからさりげなく告白されていたことに、今更ながら気づくのだった。
「気がつかない所でそっと 誰かが自分をみていてくれる」。憑き物が落ちた彩子は、「見つけてほしい 私を」とオーディションで自分の強みをアピールする。アニメでは第12幕にあたるこのエピソードでは、彩子の美しい劇中歌「試練の時」も披露される。彩子にスポットライトが当たり、素晴らしい歌声を通じてミュージカルの醍醐味が味わえる回として印象深い。
そして彩子は、奈良田愛をはじめとするライバルたちを退け、見事ジュリエット役を勝ち取った。やめてしまったら、そこで終わり。そう小野寺に言われて、音楽学校を辞めることを思いとどまった彩子。彼女がオーディションでジュリエット役を勝ち取るほどになるとは、物語を読み始めた時は想像もしていなかった。少女たちの思いがけない成長に立ち会えるのも、『かげきしょうじょ!!』の読みどころの一つである。
コンプレックスに負けそうになったり、自信のなさから空回りしてしまう彩子は、読者にとってもどこか身近な存在だ。だからこそ「がんばれ!」と、エールを送りたくなってしまうのだ。