日本語で検索してもヒットしない場所へ 『奇界遺産』佐藤健寿に聞く、奇妙なものを撮影し続ける意味

佐藤健寿が語る、奇妙なものを撮影する意味

日本語で検索してもヒットしない場所へ
佐藤健寿 (撮影:林直幸)

ーー1人の写真家として、こだわりや被写体への向き合い方、大切にしている自分のルールなどはありますか?

佐藤:被写体が多岐にわたりますので、絶対こうだということはないですね。場所によってそうしたルールのようなものはまったく通じないこともありますし、柔軟でいることが一番大事だと考えています。

 対象が凄すぎて「これは撮りきれない」と思うこともあります。たとえば北朝鮮のマスゲームは、行った瞬間に凄いなと思うと同時に、撮りきれないなと。それは物理的ではなく、何かしらもどかしさを持ち続けながら撮影している感覚といいますか。面白い場所であればあるほど、ファインダーを覗くのではなく肉眼で見ていたいというジレンマもありますね。

 また、いろいろな場所へ行って過剰に現地の人の生活に入り込むようなことは、できるだけしないように心がけています。もちろん相手が勧めてくれたならばそれを断ることはありませんが、どちらかというとこちらが「無」であるように、意識させないようにしています。短い時間のなかで「分かったような気になる」ことはむしろ相手に失礼だと思いますし、過干渉によって相手の文化を壊してしまう可能性もあるわけです。例えば先のネネツ族でいえば、僕が持って行ったドローンを子供達が興味深そうに見ている。それはもう良かれ悪しかれ文化的な影響を与えているわけです。そういうことには自覚的でいないといけないといつも思っています。

ーー『奇界遺産3』に収録されている中で、もっとも印象的な場所、またそれに関するエピソードをお聞かせください。

佐藤:先ほども話に出ましたが、北朝鮮はやはり面白かったですね。表紙の写真はマスゲームの様子で、国を挙げて大人数でやる集団演技なんですが、ずっと撮りたかったんです。前の指導者の金正日氏が亡くなってから行われてなかったそうで、金正恩氏の体制になってから5年ぶりくらいに行われたと聞いています。その数カ月前に行われることを知って、これはもう行かなければと、旅の手配をしました。

 マスゲームは平壌の大きなスタジアムで行われました。メインスタンドから見た反対側の正面スタンドに数万人の演技者たちが座っていて、私はとにかく一番いい席で写真を撮りたいと思っていましたので10万円くらい出して特Sみたいな席を買いました。そうしたらそこが北朝鮮の要人が座るような席で、実際前日には金正恩氏がその席で観覧していたそうです。当日は私とガイドの人だけが座っていたんですが、市民の人々からは「何者だ?」という感じで見られていて、手を振ったほうがいいのかなと思ったりもしました(笑)。

ーーその他、印象深い場所はありますか?

佐藤:「ドクター・クノッヘ・ミイラ研究所」も面白いですね。ベネズエラの、雷が毎日のように落ちる「マラカイボ湖」へ行く過程で偶然見つけたんです。ドイツ人の医師が内戦のべネズエラに移住して兵隊の治療にあたっていたのですが、こっそり兵士の遺体を自宅に持ち帰って、ミイラ化の研究をしていたそうです。最終的にミイラ技術を完成させた医師はアシスタントにレシピを渡して自分の死後ミイラになり、さらにアシスタントも誰かにミイラ化を託して全員ミイラになってしまいます。

ミイラ研究所廃墟 (C)佐藤健寿
ミイラ研究所廃墟 (C)佐藤健寿

 しばらくの間、廃墟になってミイラも盗まれたりしていたのですが、市が観光地にしようと、整備してレプリカを置いたそうです。でも流行らなくて、それも含めて廃墟になってしまったという凄い場所なんです。たぶん、これまでに日本人は誰も行ってないと思います。ちなみにここはネット検索しても日本語でヒットせず、英語のものが辛うじてありました。実はそういうのはけっこうありまして、泥に埋もれた街「レノケノンゴ」なども日本語ではヒットしませんでした。パプア・ニューギニアの「ノーコンディ」という精霊の踊りなども自分が撮影したのが実は「初演」だったので、写真も情報も全くネットにはなかったですね。

ーー先ほど「再生(ルネッサンス)」という言葉が出てきましたが、新型コロナ収束後の旅を含めて、今後の制作構想について何かございますか?

佐藤:ペスト以降のルネッサンスの時代(14世紀〜)は新たな価値の転換がありました。それこそ私の本ではいろいろとグロテスクなものを扱っていますが、グロテスクという言葉はイタリア語で洞窟を意味するグロッタが語源で、ルネッサンスの時代に洞窟に造られた不気味な造形の美術が転意してグロテスクという言葉になったと言われています。

 そうした価値の転換や生命観の変化のようなことが、新型コロナのような大きな世界的な出来事を経て起きるかもしれません。もちろん、かつての時代と比較するとワクチンなどもすぐに出てきましたし、大きな価値転換につながるかどうか分かりませんが、何かしら影響はあるとすれば、今度はそうしたものを撮影に行きたいと思っています。

 『奇界遺産』のシリーズは、さまざまな事柄を「奇妙」という軸で一冊にまとめたことがポイントです。たとえば「エリア51」などはUFOの本くらいにしか載っていないんですが、その文脈ではなく「人間が作った奇妙なもの」という括りで他の奇妙なものと並べました。そんな本、私が子供のころにあったらすごく面白くて興味を持ったと思うんです。まさに私がやりたかったことでもありますし、そういう想いで今後もやっていきたいですね。

佐藤健寿(さとうけんじ)プロフィール

世界各地の「奇妙なもの」を対象に、博物学的・美学的視点から撮影。主な著書にベストセラー写真集『奇界遺産』シリーズがある。2021年11月3日までライカギャラリー東京、ライカギャラリー京都、GINZA SIXにて写真展「世界 MICROCOSM」を開催中。2021年12月15日に写真集『世界』を発表予定。http://instagram.com/x51



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