ウズベキスタンのプロフ、ブルネイのさごやし粉……自宅で食の世界旅行へ『世界の郷土料理事典』
収束の予想どころか拡大すらしつつあるコロナ禍。日々の行動が制限されているなか、海外にはもう当分行かれないのだと落胆している人は少なくないだろう。私もそのひとり。毎年のパリ出張、友人との台湾旅行がルーティーンから外れてしまった。
パリと台湾。世界屈指のグルメを誇る地への旅を取り上げられて日常生活が一層鬱屈としていたときに出会ったのが『世界の郷土料理事典』(青木ゆり子・著/誠文堂新光社)だ。「全世界各国・300地域 料理の作り方を通して知る歴史、文化、宗教の食規定」というサブタイトルだが、ページをめくるたびに美味しそうな写真で埋め尽くされたグラビアの大集合。「宗教の食規定」とあると、堅苦しく感じてしまうのだが、食とはエンターテイメント!を一冊にまとめたダイナミックなグルメ&レシピ本となっている。
300ページのフルカラー。各地を代表する郷土料理の写真とそのレシピ、端的なバックボーンの3点セットが、大陸ごとにまとめられている。バックボーンについてのひと言は、おなじみの国から聞いたことのない地域までがフォローされていて「この地域にあるのか、知らなかった」「この国から独立した歴史があるのか」「入植者の食文化から影響を受けてきた料理。なるほど」と頷くことしきり。そうしたちょっとした解説が各地の料理に説得力を持たせ、また食いしん坊の好奇心に火をつけるのだ。
例えばウズベキスタン。シルクロードの要所として栄えた都市の国民食「プロフ」は、ザックリ説明すると、羊肉を入れたニンニク風味の炊き込みご飯という感じだ。この「プロフ」は沢山のバリエーションがあり、それだけで1冊の本になるくらいだと説明されている。
豊富な石油と天然ガスの産出国でリッチな王族がいるイメージのブルネイでは、主食はさごやし粉(日本でサクサク粉として売られている)を水で溶いた糊のようなトロトロのデンプン。それを木のスプーンですくって魚や野菜をおかずにして食べるそうだ。東南アジアではシンガポールの「海南鶏飯」、マレーシアでは「ナシ・レマ」、タイでは「ゲーン・キョー・ワン(グリーンカレー)」が紹介されていて、米を使った料理がスタンダードであるなか、ブルネイがそれに影響されずにいるというのも、また楽しい気づきだった。
ではアフリカ南部では、いったいどんな料理があるのだろうか。エスワティニ(旧スワジランド)の代表的な郷土食はなんとバーベキュー。見た目は日本のものと違わない。スワジ・ソースというトマトペーストをベースにしたピリ辛ソースに漬け込んだ肉をとうもろこしなどの野菜やソーセージとともに鉄板で焼く。毎年、このバーベキューの大会が催されているほどの人気だとか。
中央アメリカのページをたぐると、バージン諸島がアメリカ領とイギリス領に別れて扱われていた。アメリカ領の「ココナッツ・シュリンプ」はパン粉とココナッツ粉をまぶしたエビの揚げ物で、ハワイのガーリック・シュリンプとよく似ている。イギリス領の「ロブスター・サラダ」はキュウリや玉ねぎ、セロリと混ぜ合わせた身を、殻に戻してライムをかけてさっぱりと食べるもの。イギリス領はリゾート地のため、ちょっとリッチで洗練されたものが食されているのかもしれない。