脚本家・野木亜紀子のドラマは何を描き出したのか? 7人の評論家の視点から見えてきたもの

野木亜紀子のドラマは何を描いた?

 古舘寛治と滝藤賢一という、バイプレイヤー的ベテランが主演する『コタキ兄弟と四苦八苦』は、無職の残念な兄弟が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始める物語だ。本作を担当する田幸和歌子は、一見ユルく楽しい会話劇の中に描かれたシビアなテーマや、野木作品に通底する現代性にフォーカスする。田幸はまた、「分岐点」という切り口で野木作品を深掘りしており、その着眼点が興味深い。

 そして星野源演じる志摩と、綾野剛演じる伊吹がバディを組む刑事ドラマ『MIU404』を、横川良明が分析する。ブロマンスという視点から語られる伊吹と志摩の絆の尊さや、共感と賛同を呼び起こす社会問題の描き方など、熱烈なファンダムを生み出した『MIU404』の魅力が、冷静でありながら熱量を感じさせる筆致で掘り下げられている。

 横川は「考察」ありきの視聴姿勢に対しても疑問を呈しており、ここは重要な問題提起として見逃せない。横川が指摘するように、「俺は、お前たちの物語にはならない」という作品のセリフからも、「考察」がもてはやされる今日の風潮を俯瞰的に捉える野木の姿勢が感じられる。

 一人の作家を多士済々の書き手が解剖する本書から見えてくるのは、批評という営みの醍醐味、そして意義深さである。野木亜紀子の作品をより深く知り、楽しむために、また批評という文化の奥深さを味わうために、ぜひ本書を手に取ってほしい。

■書籍情報
『脚本家・野木亜紀子の時代』
著者:小田慶子、佐藤結衣、田幸和歌子、成馬零一、西森路代、藤原奈緒、横川良明
発売日:7月20日(火)予定
ISBN 978-4-909852-17-5
仕様:四六判/256ページ
定価:2,750円(本体2,500円+税)
出版社:株式会社blueprint
予約/購入は以下より
特設サイト:https://blueprint.co.jp/lp/nogi-akiko-no-jidai/
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4909852174/
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