脳科学者・中野信子が語る、“家族”をやめてもいい理由 「仲良くなれないのはあなたのせいじゃない」

中野信子が語る、家族不要論

 『なんで家族を続けるの?』(文春新書)。そんなタイトルの本が刊行された。エッセイストの内田也哉子氏と脳科学者の中野信子氏が、家族について縦横無尽に語った対談集だ。樹木希林氏と内田裕也氏のあいだに生まれた内田氏は、家族団欒を知らずに育ったという。中野氏は子ども時代に両親の不和の記憶があった。そうしたお互いの家族のあり方の分析を起点として、結婚生活や子育てについて脳科学の観点から迫る中野氏に話を聞いた。(篠原諄也)

別居婚は人類史的には普通のこと

『なんで家族を続けるの?』(文春新書)

ーー対談企画が始まった経緯を教えてください。

中野信子(以下、中野):横浜で開催された樹木希林展のトークショー(2020年1月)で、初対面の内田也哉子さんと家族をテーマに対談させていただくことになりました。也哉子さんは家族に関してすごく葛藤を抱えていらしたので、科学的な知見からの読み解きを提供することで、少し心が軽くなったら嬉しいなと思いました。結局、そのイベントは也哉子さんも楽しんでいただいて、(「週刊文春WOMAN」連載として)対話を重ねることになりました。

 家族について悩む方は多いと思います。一体、家族とは人間にとって何なのか。家族を作る動物と作らない動物について、メリットとその裏にある困ったことは何があるのか。まともに向き合った読み物があまりないなという感覚がありました。特に団塊ジュニア世代の視点の本は限られていました。そうしたこともあって、対話を一冊の書籍にまとめることになりました。

ーー樹木希林さんと内田裕也さんは長く別居生活をしていたことが知られています。お二人の関係性はどう分析しますか?

中野:それは大きいテーマですね(笑)。お会いしてお話したことがあるわけじゃないので、(分析するのは)難しいところがありますが。お二人の関係性は、普通の家族とはやや異なるというか、とてもアヴァンギャルドな形だったと思います。でも意外と人類史を見てみると、父と母が分かれて暮らすことはイレギュラーじゃないんですよね。日本の平安時代には通い婚がありました。人類学的に見ると父の集落と母の集落が分かれている社会はたくさんあります。

 希林さんと裕也さんは一緒にいると喧嘩してしまう。でも本来ならば、それは当たり前のことです。極端なことを言うと、人間はそれぞれ別の戦略を持って生きている個体で、完全に一致することはありえません。同じ課題に対して違う解を与える脳を持っている。むしろ一致しないことが大事で、それが種としての強さだと言えます。いわゆる多様性の正体とは、一致しないことを抱えておける力のことですね。

ーーお二人はそういう力を持っていたと。

中野:「一致しないからバラバラになりましょう」ではない。どうにかこうにか家族という枠組みを維持しながら、「相応の年月を過ごしましょう」という契約をした。それが彼らにとっての結婚だったと考えると、非常に現代的な形だと思います。違うことを内包しながら、ユニットとして生きていく。かなり努力が必要だったはずです。多様性を保持するための努力を怠らない、知的な営みだったと思うんですよ。

ーー誰しも家族など関係性が近い人と喧嘩をしてしまうことがあると思います。うまくいかない時はどうしたらいいでしょう?

中野:無理して仲良くなろうという気持ちを捨てることが大事だと思います。「家族だったら仲良くならないといけない」という圧力がありますよね。仲が悪ければ、周りから問題があると思われたりする。でも、自分のせいじゃない場合も多いんです。親は選べませんし、選ぶことができる結婚相手であっても、その人が変わるということもある。自分の責任は限定的です。もう家族とはこういうものだと思って、無理に仲良くしないことがすごく大事だと思います。仲良くなれないのはあなたのせいじゃないんですよ。

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