『鬼滅の刃』の“全集中の呼吸”はどう翻訳された? 言語学者が英語版コミックを分析

『鬼滅の刃』はどう英訳された?

 劇場版『鬼滅の刃』の勢いが止まらない。全世界累計来場者約4135万人、総興行収入約517億円を記録。中でもアメリカでは外国語映画のオープニング興行成績において、歴代1位を獲得したことは記憶に新しい。そこで一つ気になるのが英訳だ。果たして、『鬼滅の刃』のセリフの巧みさ、絶妙なニュアンスはうまく英語に訳されているのだろうか。

 今年1月に出版され話題となった『「させていただく」の語用論』(ひつじ書房)の著者で、法政大学文学部英文学科教授の椎名美智先生に『鬼滅の刃』がどう翻訳されているか分析してもらった。(編集部)

『鬼滅の刃』英訳で得られたものと失われたもの

 私たちは『鬼滅の刃』を漫画でも映画でも日本語で見ており、「「全集中の呼吸」で答弁させていただく」と国会答弁をしていた国会議員がいるくらい、大人から子供まで流行っています。これからは海外でさらに多くの人が映画を見るだろうし、漫画も英訳されているので、たくさん読まれることでしょう。そして、必ずや全世界で人気を博するはずです。

 そこで気になるのが、英訳です。はたして、日本語のニュアンスはちゃんと伝わっているのでしょうか。そこで、第1巻だけですが、日本語のコミックと英訳を比較してみました。 

 さきほども引用したように、「全集中の呼吸」「水の呼吸」「ヒノカミ神楽」などの呼吸法や技の名前は、大人が面白がって使うほどです。まず、この流行り文句がどのように訳されているのかみてみましょう。

・全集中の呼吸:TOTAL CONCENTRATION BREATHING

・水の呼吸:WATER BREATHING

・水の呼吸 壱ノ型 水面斬り WATER BREATHING, FIRST FORM, WATER SURFACE  SLASH 

・水の呼吸 弍ノ型 水車:WATER BREATHING, SECOND FORM, WATER WHEEL

・水の呼吸 肆ノ型 打ち潮 FOURTH FORM, STRIKING TIDE

 日本語がそのまま英語に変換されています。わかりやすいというか、読者は元々の日本語と同じ程度に理解できると思います。つまり、日本語でわかるものは英語でも同程度にわかるだろうし、日本語でわからないものは、英語でも同程度にわからないだろうということです。日本語で読む人も、英語で読む人も、想像力を使って、どんな呼吸法か、どんな技なのか、絵を参考に考える必要があります。

 主人公の炭治郎はいたって普通の男の子で、言葉遣いも普通です。人に優しかったり、妹を思いやったり、独り言で弱音を吐いたり、強気になったりしています。そうした普通のセリフ部分は、ほとんどそのままわかりやすい自然な英語の会話体で訳されています。とてもうまく訳されていると思います。

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