脳科学者・中野信子が語る、“家族”をやめてもいい理由 「仲良くなれないのはあなたのせいじゃない」

中野信子が語る、家族不要論

出産は身体を使わない未来が理想的?

ーー世の中では血縁が大事だとされていて、それに縛られてしまう人が多いと思いますが、生物の世界を見ると必ずしも重要でないそうでした。

中野:そうですね。遺伝子が近縁のものを優先しようとする行動は、他の生物にも見られることはあります。でも遺伝子を感じているわけじゃなくて(距離的に)近くにいる個体に対して発動すると考えたほうが脳科学的には自然です。(小型サルの)マーモセットの実験では、オスと血縁でない子どもを同じ籠の中に入れて育てると、血中に幸せホルモンのオキシトシンが増えるんですよね。自分の子供でなくても、脳が「お父さん」マーモセットになっちゃうんですよ。人間が後輩をかわいいと思って育てる時の気持ちと近いかもしれません。必ずしも遺伝的に近いわけじゃなくても、近くにいて自分より弱くて小さい個体を次世代と見なし、大事にする機構が哺乳類には備わっているんです。

ーー中野さんは子どもを産む人と育てる人は別々に分かれたほうがいいと提案していました。子育ては大変で適切な対応ができないこともある。そこは養育のプロフェッショナルが担えばいいと。

中野:かなり本気で提案したいことなんです。日本の歴史を見ても、戦国時代などは上流階級の人たちはみんなそうしていました。産むのが得意な人と、育てるのが得意な人がいる。江戸時代には春日局のような乳母という人がいましたよね。また、徳川家康は(相手が)健康で子をたくさん産めることを重視したと伝えられます。産む人と養育者を合理的に分けた先駆的な人だったと思います。

 (この提案に)抵抗がある人もいるかもしれませんが、別に一緒である必要はどこにもないんですよね。遺伝的な要因と環境的な要因はどちらも大事とわかっていますから、どちらも良い条件を整えてあげたらいいのではと思います。

ーー身体が生殖に適しているのは20代かもしれないけれど、脳が子育てに適した状態になるのは40代だそうでした。そういう意味では、人間は身体と脳の発達のバランスがあまりよくないと指摘しています。

中野:20代のお母さんはまだ自分の扱いにすら慣れていない。子どもは思いもよらないことをしますから、対応が遅くなってしまったりします。感情の処理に手間取ってしまって、疎かになってしまう可能性が指摘されています。40代のお母さんのほうが20代のお母さんよりも注意深く育てていてより適切な対応ができる。子どもの知能も上がりやすいことが知られています。だから、育てる人は年上の人がいいのかもしれませんね。もちろん遺伝や性格などの要因もあるので、みんながそうだというわけではなく、傾向としてということです。

 だからもし血縁にこだわるのであっても、たとえば20代のお母さんではなく、40代以上の祖母が育てるという手もあるのかもしれません。今は一緒に住まない家も多いので、難しいかもしれませんが。

ーーまた、人間は自分の身体を使って子どもを産まないほうがいいと主張されていたのが印象に残りました。プラスチック製などの人工子宮で産むテクノロジーが遠くない未来に開発されるだろうと。

中野:そうですね。何を言っているんだろうと思う人もいると思います。でも理性で処理できないものを抱えてしまう、人生の最大のイベントが出産だと思うんです。脳が強制的に母親の脳にさせられてしまう。そこで親子が互いに過剰な愛着を持ってしまうことによって苦しむ人があまりにも多い。もうそれくらいだったら、子どもが苦しまないために愛情を感じない仕組みを作ったらどうか。母親の脳でない人が冷静に育てたほうがいいのかなと考えました。ひとつの思考実験ですね。

ーー改めて本を出した今、これからの家族とは?

中野:家族という仕組みがもたらすメリットよりも害のほうが大きくなったのであれば、自然になくなっていくでしょうね。これだけ(テクノロジーや制度などの)インフラも整ってきました。

ーーこれからは従来の家族に代わって、多様な関係性ができていくとお考えですか?

中野:そうですね。人々は誤解をしていますが、家族が先にあって人間があるわけじゃない。人間が家族を形成しているんです。社会が人間の先にあるわけではなく、人間が社会を作っているのと同じようなことです。

 でも、家族を優先しないといけないと思わされているのが面白いところで。「それは優先しないでもいいよね」と考える人は、増えていくんじゃないかと思います。増えていっても別に悲しいことでもなんでもない。社会が壊れるわけでもない。ただ時代が変わっていく、ということかなと思います。

■書籍情報
『なんで家族を続けるの?』
内田也哉子、中野信子 著
発売中
出版社:‎文藝春秋
定価:935円(税込)



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