脳科学者・中野信子が語る、“毒親”の捉え方と解決の糸口 「家族の絆には理性を失わせる”魔力”がある」
「うちの母親、毒親なんだよね~」――中学生がそんな言葉をライトに発しているのを耳にして、驚いたことがある。毒親をテーマにしたコミックや映画が話題を呼び、いまや毒親という言葉は市民権を得たと言えるかもしれない。一方で、言葉だけが一人歩きし、正しく理解している人がどれだけいるか疑問でもある。『サイコパス』(文春新書)、『正しい恨みの晴らし方』(ポプラ新書)などベストセラーを連発している脳科学者・中野信子が、そんな現状にメスを入れた。新刊『毒親ー毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへー』(ポプラ新書)は、脳科学の観点から毒親の症例を紹介し、正しい理解を促す本である。中野がこの本に込めた思いとはなにか? 本人に聞いてみた。(尾崎ムギ子)【最後にサイン入りチェキプレゼント企画あり】
親を責めてもその状況が変わるわけではない
――個人的な話で恐縮ですが、わたしも「母親と共依存の毒親育ち」と言われることがあります。自分ではただすごく仲が良い親子だと思っているのですが……。毒親かそうでないか、線引きが難しいなと感じています。
中野:難しいですよね。自分では、自分の親を毒親だとは思っていない人でも、第三者から見れば「毒親だ」と見做されるようなケースもあります。逆に、第三者から見て普通であるように見えても、当人にとっては紛れもない毒親、というケースもあります。毒親というのは疾患ではありませんし、あくまでも関係性によって決まってくるものといえます。
――他人に迷惑をかけなければ、毒親ではない?
中野:自分も周りの人も本当に困っていないという状態なのであれば、わざわざ第三者が口をはさむこと自体が奇妙ではないでしょうか。一方で、自分が気づいていないようであっても、どこか不自然さがあったり、心に軋みを抱えているのにそれをごまかしながら過ごしていたり、というのであれば、気をつけたほうがいいかもしれません。
――多くの人が、親子関係において軋みを抱えている気がします。
中野:人はなにかを選択するときに、自ら選択しているようで、そうでないことの方が多いんです。消費行動も、あらかじめ計画して買うものは3割程度で、あとの7割はその場の雰囲気などに影響されて買っている、ということがわかっています。
選択の局面では、その場の雰囲気だけでなく、無意識的に親が以前口にした言葉や、禁止した事項などを必ず参照しています。消費行動ばかりでなく、パートナー探しの時などには顕著ではないかと思います。これは、親御さんが亡くなられていたとしても、むしろ亡くなられていたらなおさら、影響されるものかもしれません。自分の中にまだ親の声が聞こえてくる、という人は少なくないのではないでしょうか。
本当は自分は「これがいい」と思っているけれども、実際には選べない。自分の意思や気持ちをそのまま表すことにためらいがある。自分の判断を犠牲にして「親はこうしたほうが喜ぶだろう」といったことを、無意識に選ばされてしまっている場合があります。
問題になるのは「自分が、自分の望んだ判断をできなかったのは、親のせいだ」と、親に対して恨みを持ってしまうような意志決定をした場合です。
本当はAさんのほうが好きだったのに、親の意向を受け入れざるを得ない状況で、Bさんと結婚した。そして、Bさんと結婚したことによって、自分はDVを受け、心身ともにボロボロになっている。親に助けを求めても、Bさんを持ち上げ、実子である自分を助けてくれない。むしろ、Bさんがそんな風になるとしたら、お前の方が悪いんじゃないか、と責められる……。例えばそんな時、「いま私がこんなに辛いのは、わたしの親が毒親だからだ」と思うでしょう。ですが、そもそもAさんを選んでいたら、親のせいにはしなかったかもしれませんよね。まあ、どうしてAさんと結婚するのを止めてくれなかったんだ、と親を責める人もいるかもしれませんが、いずれにしても、親を責めてもすこしもその状況は変わらないわけです。そこで、どう解決の糸口を見つけていきましょうか、というのが本書のテーマのひとつです。