BL作品のトレンドは“穏やかな日常×年の差”か? 『BLアワード2021』ランクイン作品を考察
前年に発売された商業BL作品の中から人気作がランキング化される「BLアワード」。漫画や小説などの書籍だけでなく、映像や音声作品、さらには表紙デザインなど、さまざまな部門ごとにランキングが出るこのアワードを見れば、“BLの今”を押さえられる。
中でも各メディアのタイトルで取り上げられる「BESTコミック部門」の1位は、その年の顔とも言えるだろう。2020年に発売された作品を対象とした今年は、佐岸左岸氏の『オールドファッションカップケーキ』(大洋図書)が、堂々の1位を獲得している。
BL読者が今求めるのは、穏やかな日常×年の差
『オールドファッションカップケーキ』は、四十路目前に人生に悩み始めた上司・野末(のずえ)と、彼を心から慕う部下・外川(とがわ)の、ゆるやかな日常と恋模様を描いた作品だ。
仕事ができて部下や同僚からも信頼されているにもかかわらず、そういう部分を嫌味に感じさせない“ゆるさ”もあわせ持った“落ち着きのある大人”として描かれている野末。しかし実は、40歳を目の前に仕事以外何もない自分に焦りを感じ始めている人物でもある。そんな彼の心の内を見抜いたのが、部下の外川だ。外川は自分には何もないと悩んでいた時に、野末の言葉に背中を押してもらって以降、彼に想いを寄せてきた。そして年を取って過去の自分と同じ悩みにもがいている野末の背中を、その一途な想いで支え、押している。
本作の展開は、瞬きで切り取ったような何気ない日常やキャラクターの表情が淡々と描かれる、とても穏やかで心地よいものだ。しかしその中に、自分の気持ちにまっすぐな若者・外川と、いろんなことを知ってしまったがゆえに変化に対して臆病になってしまった年長者・野末の“年齢差”という壁が描かれていることで、ふたりの関係がこじれるなど、物語に緩急が生まれている。
BLアワード2021では、主題、副題含め、この「穏やかな日常」と「年齢差」を題材にした作品が目立つと感じた。
3位にランクインした『親愛なるジーンへ』(心交社)は、35歳のゲイの弁護士・トレヴァーが、家も仕事もなく寒空の下で凍え死ぬかもしれない状況にあった19歳の元アーミッシュの青年・ジーンをハウスキーパーとして家に招き入れたのをきっかけに始まる恋物語だ。
本作の舞台は、同性愛に強い偏見があった70年代のアメリカ。そんな世の中を目の当たりにしてきたトレヴァーは、「自分の気持ちやセクシャリティに蓋をしたほうが生きやすい」という処世術を身につける。最初何も持たなかったジーンに手を差し伸べたのは経済的にも精神的にも大人のトレヴァーだった。なにより彼は敬虔なキリスト教徒で大きく年の離れた穢れのないジーンに恋情を抱くこと自体が間違いだと思っている。
そんなトレヴァーの閉ざされた心を溶かすのが、ジーンの無垢でまっすぐな愛だ。ふたりは日常をともにする中で、互いに与え合う関係へと変化していく。
7位にランクインした『デリバリーハグセラピー』(リブレ)もまた、29歳の会社員・桜庭貴一(さくらばきいち)と20歳の大学生・木島尚(きじまなお)という年齢差のあるキャラクターの恋模様を描いている。
本作で先に手を差し伸べたのは、年下の尚だ。尚は、失恋で無自覚の内に傷ついていた貴一を、優しいハグで癒す。しかし尚の心の奥底にある悲しみを知った時、彼が気兼ねなく泣ける場所となったのは貴一だ。甘やかし合う関係になるふたりの姿はきっと、読者にとっての“セラピー”となったにちがいない。
新型コロナウイルスの影響もあって、息苦しさや疲労を感じることも少なくない昨今。そんな時に手に取る作品は案外、大きな起伏がなく心穏やかに読める作品ではないだろうか。それに加えて「年の差」を題材にした作品は、年上年下関係なく互いに導き合う関係性へと発展していくキャラクターたちの姿を通して、「自分も誰かに影響を与える存在になれる」という希望も読者に示してくれた。「愛する人に幸せでいてほしい」という純度100%の愛情も、鬱屈とした気分を浄化してくれたように思う。