BL作品のトレンドは“穏やかな日常×年の差”か? 『BLアワード2021』ランクイン作品を考察
コミカルなオメガバースから感じるBLジャンルのメッセージ
またBLアワード2021の結果を見て改めて、恋愛の大きな壁に同性愛ではなく他の設定を取り入れる作品が増えたと感じている。
『オールドファッションカップケーキ』や『親愛なるジーンへ』では、男性同士であることも1つのハードルとして描かれていたものの、それ以上に「年の差」や「文化の違い」が大きな壁としてキャラクターたちの恋愛に立ちはだかっていた。
「BEST次に来るBL1位」部門では、『歌舞伎町バッドトリップ』(リブレ)の心が読める設定、『服従と甘噛み』(祥伝社)の獣人、『ヘタレ魔王とツンデレ勇者』(笠倉出版社)の異世界ものなど、ファンタジー要素の強い世界観を持つ作品が名を連ねている。
また近年のBL界で一大ジャンルを築き上げた「オメガバース」もその1つだろう。オメガバースは、男女とは別にα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)という3つの性が存在する世界。中でも特徴的なのが、Ωは男性でも妊娠できるという設定だ。定期的に発情期(ヒート)が起こるΩは、そのフェロモンで無自覚にαやβを誘惑してしまうため、差別の対象になっていたり就ける仕事が限定されていたりと、悲壮感漂う描写が多かった。
しかしBLアワード2021のBESTコミック部門にランクインした『滅法矢鱈と弱気にキス』(東京漫画社)、『番手当って出ますか?』(ふゅーじょんぷろだくと)、『運命の番がお前だなんて』(新書館)のオメガバース3作品は、Ωの日常生活に必要な制度が整った社会が描かれおり、その雰囲気もクスっと笑える明るいものだった。グイグイとαに迫ったり、出世欲が剥き出しだったりするΩは、BL読者にとっては斬新に映ったのではないだろうか。
BLには、「BLはファンタジーだ」という常套句がある。しかしこの常套句も今や過去のものになりつつあるのではないかと、BLアワード2021ランクイン作品を見て感じた。淡々とした日常の中で互いが導き合う関係になっていく物語やファンタジー要素が強い作品、コミカルなオメガバースの人気が示すのは、「同性愛だけでなく性を理由とする差別や偏見をフィクションでも現実でも恋愛の壁にしない」という、書き手と読み手双方の意志なのかもしれない。
■クリス
福岡県在住のフリーライター。企業の採用やPRコンテンツ記事を中心に執筆。ブログでは、趣味のアニメや漫画の感想文を書いている。ブログ・Twitter。
■書籍情報
『オールドファッションカップケーキ』
佐岸 左岸 著
出版社:大洋図書
価格:763円
『親愛なるジーンへ』
吾妻 香夜 著
出版社:心交社
価格:748円
『デリバリーハグセラピー』
宮田 トヲル 著
出版社:リブレ
価格:758円
『歌舞伎町バッドトリップ』
汀えいじ 著
出版社:リブレ
価格:725円
『服従と甘噛み』
志木見ビビ 著
出版社:祥伝社
価格:748円
『ヘタレ魔王とツンデレ勇者』
夏野 はるお 著
出版社:笠倉出版社
価格:770円
『滅法矢鱈と弱気にキス』
腰乃 著
出版社:東京漫画社
価格:759円
『番手当って出ますか?』
藤峰式 著
出版社:ふゅーじょんぷろだくと
価格:825円
『運命の番がお前だなんて』
春田 著
出版社:新書館
価格:759円