ヒップホップ、ゾンビ、おじいさん……多様化するBL漫画、2021年のおすすめは?

BL漫画、2021年のおすすめ3選

 2020年は、ボーイズラブ(以下、BL)漫画の映像化が活発だった。「チェリまほ」こと『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(豊田悠/スクウェア・エニックス)の実写ドラマ化が記憶に新しい人もいるだろう。劇場では4作品がアニメ化、5作品が実写化されている。

 ただ映像化されているのは、ごく一部の作品だ。これは筆者の肌感でしかないが、年々BL漫画の数と新人作家のデビューを目にする機会は増え続けているように思う。2021年も豊富な連載と新刊ラインナップが待機している。そこで2021年に筆者が注目しているBL漫画を紹介したい。

『いとおしき日々』

 掃除中、古びた段ボールの中から見つけた“人生録”を読んでいる―—。そんな感覚が味わえるBLが、『いとおしき日々』だ。

 BLには、年齢を重ねたおおよそ40代くらいまでのカップルの恋愛を描く「オヤジ」「おじさん」というジャンルがある。しかし本作が描くのは、50代と60代、そしてそれから先の恋愛だ。おじさんというより「おじいさん」と捉える人もいるだろう。

 50代会社員の和彦(かずひこ)と定年退職をした60代の真(まこと)は、互いが18歳と28歳の頃に、教え子と家庭教師して出会う。そして互いを知っていく中で彼らは惹かれ合い、愛を育みながらともに年を重ね生きていく。

 ふたりからは、ずっと寄り添って生きてきたことがヒシヒシと伝わってくる。その理由は、淡々とリアルに描かれる「人が年を取っていく中できっと迎えるであろう経験」にある。墓を買う、赤いちゃんちゃんこを着て還暦を祝う、関節痛や物忘れに悩まされる、遺言書を書く。これらの他の作品ではなかなか見られない描写は、ふたりが一緒に年を取ってきた証だと言えよう。

 また作中でふたりは、養子縁組をしている。ともに生きていくといっても日本では同性婚ができない以上、ふうふとしては認められない。もちろん何の手続きもせず、一緒に暮らすことはできる。しかしパートナーの身に何かあった時に、側にいたくてもいられないことも十分にあり得るのだ。本作はこの同性カップルに立ちはだかる厳しい現実と、その際に和彦と真がどういう選択を取ったのかを描くことで、ふたりの「ともに生きる」という覚悟を読者に強く印象づけたと思う。

 人は年を取るし、大切な人と否が応でも別れる日が来る。そんな誰にでも平等に訪れる日に向かって日々を重ね愛を伝え合う和彦と真の物語はきっと、心から愛しく思う人との1日1日をどう生きていくのか、考える機会をくれるだろう。

『WACKER'S DELIGHT』

 スポーツや楽器、ファッション……。好きな子に振り向いてほしくて、何かを始めた経験がある人もいると思う。『WACKER'S DELIGHT』の乙成史(おとなしふみと)の場合、その手段はヒップホップだった。

 本作はヒップホップ初心者の寡黙な高校生・史と、ラッパーとして生きラッパーのまま死んだ幽霊のオッサンの思いがけない出会いから始まる。この出会いがきっかけとなり、新たな名曲が生まれる――、みたいな物語が始まるわけではない。

 好きな人・梶田隆(かじたたかし)との共通点を持つためにヒップホップを聴き始めた史は、教本とDVDを購入し、ノートの表紙に「ライムノート」と書き込んでラップにも挑戦しようと意気込む。ヒップホップの“ヒ”の字もラップの“ラ”の字も分からない史の想定外の熱意に戸惑いつつも、幽霊ラッパーは彼にラップの特訓をすることになる。しかしライムノートばかりが何冊も積み重なるばかりで、特訓は進まない。しかも史はそれを武器に、梶田の前でラップを披露しようとする。無謀なチャレンジに見えたが、機転を利かせた幽霊ラッパーが史に憑依し即興ラップを披露したことで、史は梶田との仲を一歩進める。

 本作はあくまで、BLコミック誌『OPERA』に掲載されているB(ボーイ)がL(ラブ)する作品だ。しかし甘くドキドキする展開は、今のところない。それでもBLの体を成しているのは、史の梶田への一途な想いが描かれているからだ。また無表情のまま想いが暴走しがちな史と、彼にツッコミを入れたり憑依して食い止めたりする幽霊のやりとりはきっと、BL読者はもちろん、これまで親しみのなかった人にも笑いを届けてくれるだろう。

 『WACKER'S DELIGHT』は現在、pixivコミックの「オペラボ」で2話まで読むことができる。さらに梶田視点のスピンオフ『Wacker's Delight -verse K-』も公開中だ。

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